俺だけ見える運命の相手【幽霊】が傍でデレるの可愛い。
かなりつ
第1話 人生は晴れ時々浮気現場
地方都市の田舎には独特な匂いがある。
新緑の木々と田舎らしい風の匂いとでもいうべきだろうか、近くの湖からは独特の匂いがあり、街の中で雑多な匂いが混ざりあう。
田舎は空気が美味しいなんて言われるが、中途半端な田舎の都市では、様々な匂いが混ざり合いその都市独特の匂いとなる。
僕が住んでいる家の岡石駅から三つ離れた駅前のオシャレな喫茶店からは、特別にブレンドされたコーヒーの匂いがしてきていた。
暑い日差しの下、営業で歩き回った僕は、その匂いに誘われていた。
氷の入った冷たい飲み物に、空調のきいた室内。
少しくらい休んだところで罰はあたらないだろう。
雑多な匂いの中でコーヒーの匂いに誘われるように喫茶店へ歩いていくと、外からガラス張りに見える店内には見覚えのある顔があった。
あれって……もしかして僕の彼女の詩乃だろうか?
そこには僕の彼女の詩乃によく似た人が知らない男ととても楽しそうにお茶をしていた。
最近はいつも退屈そうな顔していた詩乃。
いつの間にか詩乃の目線が怖くて、正面から見れず彼女のご機嫌を伺うようになっていた。
僕の前であんな笑顔になっていたのはいつだろうか。あまり記憶にない。
どうしよう。もしかして浮気だろうか?
いや、そんなことはあるわけない。
僕の彼女に限ってそんなことない。
こないだあった時も、次にデートの約束をしていた。
欲しいブランドのバックがあるから、ローンで購入すると約束したばかりだ。
神様にだって誓える。絶対に浮気はない。
だけど……よけいなことだとわかっていながらも彼女が今何をしているのか、聞かずにはいられなかった。
僕はスマホの無料連絡アプリのロインで彼女へ連絡してみた。
内容は、できるだけすぐに返信がきそうな感じがいいだろう。
『今何してる? 家の近くまで来たんだけど家に寄ってもいい?』
『ごめんっ! ちょっと今大学の頃の友達とごはん来てるんだ』
『あっごめんね! それってもちろん男じゃないよね(笑)?』
僕は冗談交じりに聞いてみた。できれば素直に男って言ってくれた方が安心する。
『えっ? 私のこと疑ってるってこと? 女の子だよ! マキっていうすごく可愛い子。写真を送ってあげるね!』
やっぱり彼女じゃないじゃないか。
僕が見ている喫茶店には僕と違って筋肉ムキムキで色黒の爽やかイケメンと詩乃に似た女の子の姿が見える。
そのイケメンの髪の毛は短髪で少し茶色がかっていて、爽やかな水色のシャツを着ていて、近くの海でサーフボードでも持っていそうなタイプだ。
目を細めて、もう200mくらい離れれば、中世的な女性だと言われればそう見えなくもない。
決して可愛い分類には入らなさそうだが、女性と男性では可愛いの基準が違うのは仕方がない。決して僕が無理にそう思っているからってわけではないと思いたい。
ただ、どうしてだろう。スマホを握る手が震えている。
スマホを握りしめてそんなことを考えていると彼女からメッセージが届く。
『マキとごはん食べてるの。せっかくだから今撮った彼女の写真送るね! めっちゃ可愛くない!?』
送られてきた写真には確かに可愛い女の子が写っていた。
なるほど。僕が見ている女の子が彼女に似ているだけで、やっぱりあの子は彼女じゃないんだな。それか、双子の姉とか……いや、一人っ子って言っていた覚えがある。
それじゃあ生き別れだろうか?
姉妹に見える彼女のお母さんかも!
そうだ。それが一番しっくりくる。
なんとか自分に言い聞かせようとするが、僕がデート用に買ってあげた服と同じのを着ているなんてことはあるだろうか。
僕は彼女が送ってくれた写真をよく見てみる。
なにか他に情報はないだろうか。
ついでにプロパティから撮影情報などないか探してみると、それは1カ月以上前の撮影日が記載されていた。
そりゃそうだ。これだけ暑い日に少し肌寒い時に着るような長袖を着ている女の子なんてそうそういるわけがない。
あれかな。きっと今の写真を送ったんじゃなくて、前の写真を送ってしまったのかな?
今撮ったと送られてきていたのに、こんな可愛い間違いをしてしまう詩乃は本当にお茶目さんなんだからと、動揺しすぎて思考がめちゃくちゃになっている。
でも、これで確信を持てた。少なくとも、彼女は今マキさんという女の子とは会ってはいないようだ。
僕はそっとスマホを鞄の中にしまった。
これはコーヒーの匂いに誘われて休憩をしようとした罰だな。
詩乃のためにブランドバックを買ってあげるためには、休んでいる暇などないのだ。馬車馬のごとく働くしかない。
見なかったことにすればそれでいいのだ。
それに、別に浮気って決まったわけではない。彼女はたまたま大学の友達と会って、お茶をしていただけなんだ。
あの男性を正面から見ればマキちゃんかもしれないし。
そう、すべてを知らせるのが時にいいとは限らないって言うじゃないか。
さて、どうしようかな?
次の営業先にでも行こうか。
僕がその場からそっと離れようとすると、タイミング悪く喫茶店から詩乃がでてきてしまった。隠れられる場所はない。
どうしよう。他人のフリ作戦するか。
双子の兄って言ってみるとか。
詩乃は少し口角をあげ、鬼のような目つきでこっちに小走りでやってきた。
よし、逃げよう。他人のそら似作戦だ。
僕は、視線を外してそのまま駅の方へ歩き出すと後ろから声をかけられる。
「ストーカー! なんでいるの? まじで最低なんだけど」
あっ完全に僕だってバレている。もう逃げられない。ここで黙って逃げると悲惨な未来しか見えない。僕は詩乃のことが好きなんだからやっぱり向き合わないといけない。
それにしてもストーカー? どういうこと?
僕はゆっくりと詩乃の方へ振り返る。
「いや、たまたま仕事でこっちに来てて、他人の空似かと思ってたんだよ。ほら写真のマキちゃんも1カ月前の送ってくれていたし。きっと心配させたくないのかと思って」
僕は慌てて余計なことまで言ってしまった。こういう余計なことが彼女を怒らせる原因なのに。
できることなら僕のコミュニケーション能力をもっとあげたい。というか今すぐにでもあがらないと、彼女との関係が死ぬ。
「はぁ? まじでありえない」
「詩乃どうしたんだよ?」
どうみてもマキちゃんじゃない太い声をしたイケメンが詩乃を追いかけてやってきた。
見ればわかるだろ。修羅場中なんだからお前、少し空気を読め!
なんて思ったところで言えるわけがない。
「たーあちゃん聞いて、この変態ストーカーが私のことをずっとつけまわしてくるの。本当に気持ち悪くて」
「えっ? 何を言ってるの」
「お前、俺が好きな詩乃になんてことしてくれてるんだよ!」
僕は、そのまま何も反論できずに顔面にすごい衝撃を受け、一瞬でそのまま空を見上げることになった。
バリッと背中に入ってたPCが壊れる嫌な音がする。きっと画面あたりがいってしまったんだろうな。ビルの隙間から見える青い空がとてもきれいだ。
「次、その顔を詩乃の前に見せたらただじゃおかないからな」
そんな捨て台詞を言われなくても、もう二度と顔なんて見ることはできない。
だって僕は詩乃のことが大好きだったんだから。
浮気されていたって、心の中はぐちゃぐちゃで今にも吐きそうなくらい辛かったけど、それでも信じようとしてしまうくらい頭の中がごちゃごちゃでどうしようもない。
僕は駅前の広場でそのまま空を見続けて泣き続けた。
この世界から見れば僕の不幸なんてたいしたことではないってわかっているけど、それでも悲しくて仕方がなかった。
その翌日、僕はさらに大変な目にあうとは、この時は思いもしなかった。
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