第200話 ~ とある探索者たちの風景② ~

「不毛な争いは好まない、こちらも善処するが… 調和にかたむき過ぎると、中身のない衆愚に毒されて身を滅ぼすぞ」


「かと言って、独断専行だと人の心が “分からなくなって” 道を誤るよ、レオニス」

「いや、為政者いせいしゃをやるには “さじ加減が悪い” って指摘だけどな」


 それぐらいさっしろと異母兄に皮肉をえ、金髪碧眼の公子が平岩より腰を上げる。


 仲間達の方向へ立ち去っていく姿を見送りつつ、独り残されたルベルトは風絶ふうぜつの術式維持を止めて、自らをかえりみるために数分の時間をいた。


「色々と難しいね、不幸になりそうな人の数を減らして、笑顔を見たいだけなのに」

「とりま、これ食べて幸せになろ、ルー先輩」


 抜き足、差し足で背後から、こっそり忍び寄っていた猫娘のセリカにハグされたかと思えば、にわかに口元へ堅焼きのビスケットを近づけられる。


 日持ちするようにシロップも入れて水分の割合を少なくしたバタークリーム、ドライフルーツの葡萄ぶどうが生地にせられており、素直にかじると甘い味が口腔こうくうへ広がった。


「うぐ、先を越された」

「ふふっ、虎視眈々と狙ってたからね~♪」


 得意げな実妹に不服そうな眼差まなざしを向け、ずいと姉のセリアが突き出してきたのもくだんの焼き菓子であり、果実の部分のみが杏子あんずに置きわっている。


 なかば強制的であれど、双子姉妹を受け入れたおり、平等にでると誓わされた手前、ここで拒否するという選択肢は銀髪碧眼の公子にない。


「ありがとう、そっちももらうよ」

「ん… 食べさせてあげる」


 いまだ強靭きょうじんな猫虎人の膂力りょりょくで抱き締められたままこころよく餌付けに応じるも、彼を神輿みこしかつぐ教皇派の司祭や従兵は納得しておらず、一様いちように渋い表情を浮かべていた。


たわむれとはえ、獣人ごときをそばはべらせるのは頂けない」


所詮しょせん、異教の蛮族ですからね」

「いずれは忠節をって、苦言をていする必要があります」


 などと、恐らくは純粋な善意による身勝手な発言を聞き、第一王子の専属司祭も兼ねた聖堂騎士の青年は “余計な御世話だろうな” と内心で呟く。


 幾ら注意しようと無駄なのは学習済みであり、総論と各論を分ける主義のセルムスにとって共に危地へ踏み入り、同じ釜の飯を食った双子姉妹は大切な仲間だ。


 今のような休憩時にいちゃつかれると、やや疎外感を感じるのはさておき、ざまに言われるのも腹立たしい。


方々かたがた、教徒を挟んだ間接的な取引ですが、ランベイル家は教会諸派に使役獣ファミリアおろしています。それにセリア嬢の使い魔ファミリアも、本探索には欠かせないかと……」


 彼女が影に潜ませる双頭の魔獣オルトロスや、現地調達した栗鼠リスなどは指摘の通り、何度も蜥蜴とかげ人らの気配をとらえて奇襲の端緒たんしょを潰していた。


「一律にさげすむのは角違いだと申されるか、騎士殿」

しかり、少なくとも和を乱す言動はひかえてもらいたい」


 きっぱりと言い切れば立場上、教皇庁から派遣された聖堂騎士より、ヒエラルキーが低い現地の司祭は黙るしかない。


 それは従兵らも同様なので、数秒ほど物言いたげな空気がただようものの、むつみ合っていた第一王子と猫虎人の姉妹が輪へ戻るまでに霧散した。

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