第167話

「う… っ、うぅ… あちこち、痛いんだけど!!」


 傷ついて血にまみれた部位から白煙を上げ、急速に自己修復されていく半人造の少女ハーフホムンクルスが吠え叫ぶかたわら、効果があったことで再度の “踏みつけストンプ” をかまそうとするタラスクの顔面目掛け、短い符丁ふちょうの言葉と共に二個の魔封石を投じる。


 直前に適度な魔力を流して励起れいきさせたそれらは、衝突に先んじて臨界点を迎え、目晦めくらましの閃光と爆音を生じさせた。


「ヴゥッ!?」


 突然、視界や聴覚を奪われて、面喰めんくらった相手はいちじるしく集中を欠き、太い左右の前あしに宿らせた土属性の魔力を霧消させてしまう。


 その状態で地面を踏み締めたところで、もはや初見しょけんのような破壊力はなく、して問題にならない程度の飛礫ひれきが生じるのみ。


「やはり、術式のたぐいだったか」

「っ、好機!!」


 ぼそりと呟いた俺に構わず、寸前に再展開させていた “連なる小楯アイギス” を司祭の娘が解き、中途半端な隙を見せた偽竜へ颶風ぐふうとなって吶喊とっかんする。


 身体強化の術式による全身の膂力りょりょくかして、勢いのままに放たれた聖槍の一撃は硬い皮膚を貫き、右前あしの骨肉まで及ぶ刺傷を負わせた。


 さらにリィナが援護の銃弾を放ち、付与された爆破の魔法で巨獣の動きを牽制すれば、手元を滑らせたフィアは太いあしに近づいて、右の足裏を蹴り当てる。


 近接戦も考慮した淑女向け法衣の深いスリットから、惜しげもなく魅惑的な太腿をさらして踏ん張り、一息に得物を引き抜こうとするも… 深く喰い込んではずれない。


「ッァアァ―ッ――!!」


 苦鳴を飲み下したタラスクも、目障りな獲物を大顎おおあごで噛み殺そうと試みるが、何もない虚空へ生じた小さなキューブ状の魔法障壁群に阻まれて、鋭い牙で一部を砕くにとどまった。


「ジェオ君!!」


 槍柄を手放して飛び退いた彼女に指摘されるより早く、身体が動いていた俺は中あしに鉈剣で仕掛けるリィナを視界へ収めながら、一つだけ前方に浮かんだ半透明の四面体を足場として高く跳躍する。


 六本肢の偽竜を仕留めるため、武装と成した魔導書にマナを凝集させて、一時的に鈍色にびいろの手甲を巨大化させた直後、いかめしい甲羅に生えている大棘が一斉にうごめいた。


「無駄に多彩だな、おいッ!!」


 射角調整を踏まえて、次々と撃ち出される “生体弾頭” の対空兵器に辟易へきえきしつつ、頭脳と感性に強化術式の重点を切り替えて、色彩と音が欠けた単調モノトーンな世界へ意識を没入させる。


 体感的に引きばした刹那せつなの一瞬で弾道を見切り、的中しそうなものだけ領域爆破の魔法で迎え撃つと、想定よりも大きな爆炎が生じて身体をあおられた。


 どうやら、あの大棘は何らかの刺激で激発するらしいものの、不可解な仕組みを考えるひまもなく重力に引かれ落ちて、業火の残滓ざんしに包まれる。


 それを払うがごとく、大きな手甲におおわれた左腕を振り抜き、偽竜の甲羅へ叩き付けた上で、某公爵家の令嬢も扱うと聞く中級魔法 “紅蓮華・繚乱” を炸裂させた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る