「むぅ、どうやったらさ、フィアみたいに大きくなるの？」

「ん～、別に何かした覚えもないし、それに……」

　斜めに視線を逸（そ）らして、考えるような仕草（しぐさ）を取った司祭の娘は “走ったり”、“階段を昇降したり” する際に胸が揺れて痛いと嘆（なげ）く。

　他にも後ろで釦（ボタン）を止める服が着にくいとか、ドレスだと生地の前だけ持ち上がって足元の丈（たけ）が前後で微妙になるなど、良いことばかりじゃないとリィナを宥（なだ）めるも、持たざる者の理解は得られない。

「なにそれ、自慢なの？上から目線の自慢だよね、修正してやる！！」

「うきゃあ、ちょっ、やめなさい！」

　九死に一生を得て以降、身体的な成長に乏しい半人造の少女（ハーフホムンクルス）が憤（いきどお）り、いやらしい手付きで豊かな乳房を執拗に揉み込んでいれば、魔の手より逃れようと足掻（あが）いた幼馴染の肘が自らの胸元に突き刺さった。

「痛ッ！？暴力反対！私がイジメられてる、助けて！！」

「いや、自業自得なのは一目瞭然だろう」

「あはは… いつも、こんな感じだと大変でしょうね、お客様」

　何の寸劇を見せられているんだと呆れつつも、年若い店番の娘が同情の混じった生暖かい眼差（まなざ）しで俺に微笑みかけてくる。

　そうでなくとも、専門店の雰囲気に居づらさを感じていたので、咄嗟（とっさ）の返事に困ってしまうと同時、場違いな自身の存在が商売の邪魔となる可能性に思い至った。

「…… 軒先（のき）で待つ、金銭は預けておくが、無駄遣（づか）いするなよ」

　一声掛けて、革製の小袋を整息したばかりのフィアに投げ渡す。

　緩い放物線を描いた金銀貨幣入りの銭（ぜに）袋は、難なく皿のように構えた彼女の両掌に収まり、じゃらりと金属音を鳴らして売り手の目つきを微（かす）かに変えさせた。

「近頃は上下で一式揃（そろ）った蠱惑的な下着も増えていますし、お嬢様方に似合う良品を選んでみせますから、少しだけお待ちくださいな♪」

「ふふっ、今夜一緒に魅（み）せてあげるわ」

「もう、勝手に私を巻き込むのは駄目ですよ、リィナ」

　やや不満げに嗜（たしな）めるも満更ではない様子で、こちらを窺（うかが）う司祭の娘に見送られ、瀟洒（しょうしゃ）な内装が施（ほどこ）された店舗の外へ足を向ける。

　暮れゆく秋空に浮かぶ羊雲の群れをぼんやりと数（かど）え、明らかに少しとは言えない時間を潰せば、自領の産物である亜麻色の大判紙に包まれた購入品を携（たずさ）えて、ほくほく顔の二人がやってきた。

「こう、綺麗に包（つつ）んでくれるのが嬉しいですね」

「多分、紙代もお値段に転嫁されているとは思うけど……」

　喜んでいる司祭の娘に水を差すほどでもないため、掘り下げずに軽くなった銭（ぜに）袋を受け取り、今月の残りは節制に努（つと）めようと誓って踵（きびす）を返す。

　なお、建設中の製紙工場へ戻った時点で日は落ちており、現場の進捗（しんちょく）確認よりも先に併設された新居で艶（つや）やかな下着姿を披露されるという、何処か締（しま）まらない王都での初日は恙（つつが）なく過ぎていった。

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