第87話 怪獣殺しのハーレムデート

 打ち上げパーティーから翌日。

 僕は池袋のとある公園にいながら、腕時計を確認していた。


 今は10時ちょっと前。

 そろそろ来る頃だな。


「なんだか変な気分だね。3人でデートだなんて」


「デートって言うのかこれ? 普通に遊びに行く感じのような」


「もう兄さん、ハッキリ言ってデートだよ。じゃなきゃこんな服装とかしないよ」


「そうかなぁ……」


 僕の隣には、清楚な服装をした絵麻がいる。

 ちょうど文化祭の時と同じようなものだ。


 打ち上げパーティー時に森塚さんに言われた通り、僕達は彼女と遊ぶ事になっている。


 僕は絵麻に言われて眼鏡を外し、出かけても恥ずかしくない服装を身に纏っていた。

 まぁ、黒い半袖ジャケットに白いシャツ、黒いチノパンといったありふれた感じだけど。


 とりあえず僕達は森塚さんが来るまで、こうして駄弁っている訳だ。


 未だ諜報班による五十嵐君の捜索は終わっていないらしいけど、相手が巨大な怪獣ではなく小さい人間というのが関係しているのかもしれない。

 五十嵐君が地下に逃げたのも、捜索を困難にさせている要因だろう。


 とは言え、僕は待機されている身。

 その時が来るまで、甘んじて休暇はとってもらうつもりだ。


「……正直、森塚さんが私を省かなくてよかったと思う」


「もし省かれていたらどうしてたんだ?」


「泣いていたかもね」


「マジ……? いや、お前を泣かせるような事は……」


「冗談だよ。とりあえず一緒に楽しもうね、兄さん」


「あ、ああ……」


 泣くと聞いて一瞬焦ってしまった……。

 そういえば最後に泣いたのはいつだったか……ああ、恋愛ドラマで感動していたくらいか。


「(カップルかな、あの人達……?)」


「(えー、顔立ちが似ているから兄妹じゃないかな? 美形兄妹とかうらやまー)」


「(はぁ……あんなカッコいい兄がいたらなぁ……)」


 なんかこちらをジロジロ見られているし、よく聞こえないけどひそひそ話もしているな……。

 出来れば早く移動したいところなんだけど……。


「ごめん、お待たせ」


「あっ、おはようございます森塚さん」


 その時に声がしてきて、それに絵麻が返事した。

 振り向いてみると、そこには魅力的な服装をした森塚さんが立っていた。


 白シャツの上に青いジャケット、デニムショートパンツ。


 清楚な絵麻に対して、現代っ子な森塚さんといった様相で、彼女の性格というか雰囲気をより醸し出している。

 

「ど、どうかな? 似合う?」


「うん……結構似合うよ」


「よかったぁ……絵麻ちゃんの服も可愛いよ」


「ど、どうも……(サマになってるなぁ……今度試してみよう)」


 圧倒されつつもボソッと呟く絵麻。

 さて森塚さんが来た事だし、そろそろ行こうか。


「森塚さん、案内してくれるかな?」


「うん、こっちだよ」


 森塚さんが知っているというロールアイス屋へと向かう事になった。

 

 その途端、絵麻がそっと僕の手を握ってくる。

 

 見下ろしてみれば、ニコッとした絵麻の笑顔が。

 しょうがないからこのままにしておくか。


「……大都君、握っていいかな?」


「えっ?」


 ふと、僕の様子を見ていた森塚さんが尋ねてきた。

 これは断りづらい……。


「もし君が良ければ……」


「よし……じゃあごめんね」


 ガッツポーズをしてから、僕の空いた手を握る森塚さん。


 これによって、僕は絵麻と森塚さんの間に挟まれた状態になってしまう。

 

 ううむ……自分が了承したとはいえ、少し恥ずかしいな。

 現に周りが見ている上に、男達の視線が鋭くなったような気もする。


「(アイツ……美人達をはべらせているぞ……)」


「(いいなぁ……イケメンは……)」


 彼らから小さく話し声が聞こえてくる

 まぁ、これは絵麻達が美人だからというのもあるけど、これは何とも居たたまれない。


「……兄さんの手、温かいなぁ」


「大都君の手……」


 2人とも嬉しそうだし、このままで大丈夫……なのかな。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 という訳で、新しく出来たロールアイス屋に到着した。


 ロールアイスというのは、専用の冷凍機器で凍らせたアイスをロール状に巻いたものだ。

 その見た目の可愛さから、最近ではちょっとした人気になっている。


 早速店内に入った僕達だけど、お客さんが女の子しかいないみたいだ。

 男なんて人っ子1人もいない……これ場違いでは?


「森塚さん……僕が浮いているとかない?」


「別にそうでも。よくカップルが来るっていうから大丈夫でしょ」


 そういう問題だろうか?


 ともあれロールアイスを注文してから、僕達はテーブルに座った。

 僕はイチゴアイス、森塚さんはチョコミント味、そして絵麻は抹茶味と綺麗に分かれている。

 

「これ食べたかったんだよねぇ。というか絵麻ちゃん、抹茶味だなんて渋いじゃん」


「そうですかね? 割とこういうの好きなんですよ」


「あたし、抹茶苦手だから羨ましいなぁ。……ん! 美味しい!」


「ほんとですね! 兄さんも食べなよ」


 ロールアイスを一口した2人が、目を輝かせていた。

 僕もそれに見倣みならって、アイスを口の中へと運ぶ。


「へぇ、これは中々」


 ロールアイスは初めて食べたけど、普通のアイスとは一味違う。

 こう言うのも悪くないし、実に美味い。


「……あっ、絵麻。口元にアイス付いてる」


「えっ?」


「動かないで……よしOK」


 僕はハンカチで絵麻の口元を拭った。

 そうすると、絵麻がオロオロと目を泳がせる。


「兄さんが拭いてくれた……へへ……」


「むぅ……絵麻ちゃんいいなぁ。でも何だか可愛いかも」


「もう、茶化さないで下さいよ!」


 ちょっぴり怒る絵麻に対して、森塚さんがフッと笑う。

 まるで姉妹みたいな姿に、僕はほっこりとした気分になっていった。

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