第69話 怪獣殺しの凱旋
《未央奈さん:本当に頑張ったわね一樹君。話とかは空港で会ってからするわ》
空港に向かっている車の中、僕は未央奈さんのラインを見ていた。
彼女が連れ去られた雨宮さんのイヤリングからアジ・ダハーカの情報を聞いて、それを僕に伝えてくれた。
こればかりは感謝してもしきれない。
《一樹:分かりました。それと雨宮さんの情報を流してくれた事、本当に感謝しています》
《未央奈さん:いえいえ。正直あのアジ・ダハーカと出くわしたなんて、今でもビックリしているけどね。それに《獣化》を解放した事も……身体は大丈夫なのね?》
《一樹:ええ問題はなく。ピンピンしてます》
《絵麻:本当に? 大丈夫?》
そこにグループラインに加わっている絵麻のメッセージが入る。
《獣化》の事は一応知っているんだけど……まったく心配性なんだから。
《一樹:こんな事でくたばる兄さんじゃないさ。でも心配してくれてありがとうな》
《絵麻:……うん。じゃあ私達、待ってるから(頬を赤らめる怪獣のスタンプ)》
《一樹:ああ》
ラインを終えた途端、車の速度が緩やかになったのを感じる。
やっとナチュラル空港へと到着したようだ。
僕達は運転手に礼をしてから、受付へと向かい始めた。
持っているキャリーバッグの転がる音を聞いていた僕だけど、不意にある気配に気付いて左方向へと向く。
そこには人混みに紛れながら、こっちを見ているフェンリルの姿があった。
僕達を見送りに来たのかな。
「彼女、フェンリルらしいですね」
「うん」
アジ・ダハーカ戦後に衛星映像を見たおかげか、雨宮さん達も金髪少女の正体を把握済みだ。
フェンリルが微笑みながら手を振ってくるので、僕やヒメも同じように返す。
そうして彼女は人混みの中へと消えていき、僕達から去っていった。
「あの方が一樹様を加勢して下さったんですね。というか輩に絡まれた女の子がそうだったって思わなかったですよ」
「僕もだよ。さっ、行こうか」
僕達は受付を済ませた後、飛行機の中へと乗り込む。
荷物を上部へと押し込んでいる際、雨宮さんがふと漏らすように呟いた。
「バハムートもフェンリルも、何で彼らは人間の味方をするんでしょう?」
(……お爺さん。雨宮さんが人間の味方する理由を聞いてるけど、答えていい?)
(構わないさ。よかったら我が言葉を彼女に伝えてほしい)
「雨宮さん、今からお爺さんの言葉を翻訳するからさ、ちゃんと聞いてくれる?」
「えっ、はい……」
荷物の収納を済ませた後、僕はお爺さんの言葉をそのまま雨宮さんへと伝えた。
「(アジ・ダハーカは人間を醜い害虫と扱っていたが 我からすれば自身ら怪獣の方が醜いと思っている)」
「喋り方が古風になってますね」
「ああ、これはお爺さんの言葉だから気にしないで。えっとね……(存在するだけで周囲に破壊をもたらし、暴力なしでは生きられず、さらにそこに巻き込まれた故の嘆きと悲しみがあっても省みない。亡き我が妻もまた、家族を怪獣に殺されてしばらく泣いていた)」
「……バハムートの奥さんが……」
これは以前聞いた事があった。
なのでそのまま聞かずに、お爺さんの言葉を淡々と伝える。
「(かつて怪獣によって村を壊滅させられ、家族を失ってしまったアイツを、我は放っておけなかった。そうした甲斐もあってか、死ぬまで我の事を想ってくれたよ……)」
「…………」
「(話を戻そう。怪獣の行動に善悪の概念がないのだから致し方がないと唱える者もいるが、我は逆だ。善悪が分からないのをいい事に、自身本位に殺戮や破壊をする怪獣共に、我は
これもまた以前に聞かされた事だ。
お爺さんは怪獣でありながら人間を愛している。
それは裏を返せば、人間に近い心を持っているという事。
だからこそ、そんな破壊しかもたらさない同種に思うところが出来てしまったのだろう。
「(人間も確かに醜いところもある……だが彼らには心がある。我はそんな面を持つ人間に惹かれたのかもしれない。人間を味方する理由はそんなところだろうか……)だって」
「……そうでしたか」
雨宮さんそれだけ言って、うつむきながら黙った。
ただすぐに口を開く。
「私、怪獣を本能だけで暴れ回る存在だと思ってましたが、そういう姿に嫌悪する個体もいた訳なんですね」
「まぁ、お爺さんが特例ってだけだよ。フェンリルについては分からないけど、もしかしたら同じ事を考えているのかも」
「きっとそうですね。あの、バハムートに伝えて下さい。話して下さってありがとうございますと」
「ああ、大丈夫だよ。もう本人には伝わっているから」
それから座っているヒメを見ると、彼女が気持ちよそうな寝顔で熟睡している。
僕はちょうど来たCAからシーツをもらい、彼女に優しく被せる事にした。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
日をまたいだ後、僕達の飛行機が故郷の日本に到着。
アメリカもいいけど、やっぱり日本の方が妙に落ち着く。
こういうのって怪獣でいう帰巣本能というやつかな。
空港の出入り口に着くと、温かいお出迎えが待っていた。
「兄さん、お帰りなさい!」
「大都君!」
絵麻に森塚さん、そして車の近くにいる未央奈さん。
三大美人が集まっているおかげで、周りの男性の目がすごく集まっている。
まぁそんな事はさておき、僕は駆け寄ってきた絵麻と森塚さんへと言った。
「ありがとう、出迎えてくれて。絵麻はいい子にしてたか?」
「うん、未央奈さんと森塚さんがいたから。雨宮さんもヒメさんもお疲れ様です」
「いえいえ、とんでもございません! むしろアメリカの経験はいい勉強になりました!」
確かにヒメからすれば、新しい発見だったに違いないだろう。
……あれ、僕なんか忘れているような。
「……あっ」
「ん? どうしたの大都君?」
「……ごめん、お土産買ってくるの忘れてた」
「「…………」」
いけない……今回色々とありすぎて、お土産の事をすっかり忘れていた……。
絵麻達、怒るかな……。
「まぁ、しょうがないですよね。森塚さん」
「うん。ごめんね大都君、気ぃ遣わせちゃって。別にあたし達は大丈夫だよ」
と思いきや、絵麻も森塚さんも割と平然としていた。
「怒ってないの?」
「2度目のスタンピードを鎮圧したってニュース見たからね。兄さん頑張ったんだろうなって」
「うん。そういうの見てたら、お土産とかは失礼かなぁって思っちゃった」
「……何か申し訳ないな。というか2人とも、妙に打ち解けていない?」
「あー、そうかな?」
絵麻がそう言うけど、実にまんざらでもない表情だ。
きっと僕がいない間に仲良くなったのかな。良い事だ。
「一樹君、飛鳥ちゃん、ヒメちゃん。アメリカ遠征お疲れ様」
車に寄りかかっていた未央奈さんがやって来て、僕の前に立った。
「それに一樹君、あの邪悪なアジ・ダハーカを討伐するなんてお手柄だわ。私としても嬉しい事よ」
「ああ、聞いた聞いた。あの伝説のアジ・ダハーカを倒すなんて、すごいよ兄さん」
「まぁうん。これでアメリカが平和になればいいんだけど」
「それは同感。さて一樹君が帰ってきた事だし、皆でお寿司食べに行きましょうか。もちろん私の奢りよ」
未央奈さんの言葉に、女性陣から「おおお!」と感激の声。
すぐに僕達が車へと乗り込んでいくと、運転席の未央奈さんが急に振り返る。
「忘れそうだった。聞いたわよ一樹君、国防長官からシルバースターもらったんだってね」
「「シルバースター!!?」」
「はい。国防長官からの褒美はそれで妥協したもんで」
「妥協って!? 大都君、シルバースター贈られるって相当なもんだよ!! それ以上何があったの!?」
「それ以上っていうと、VIP待遇とかかな。もちろん断ったんだけど」
「……すごいね、大都君……」
「1回目の渡米の時はもらわなかったんだけどなぁ……」
森塚さんも絵麻も開いた口が塞がらないようだ。
せっかくだし、あとで2人にシルバースターを見せてやろうかな……なんて席に身体を預けながら思う僕だった。
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