第53話 怪獣殺しの外回り 2
その昔、猛毒怪獣に襲撃された田舎町があったらしい。
なんとか怪獣は倒したものの、町の損傷が激しいだけじゃなく怪獣による瘴気が土壌汚染してしまったという事で、その町は放棄されて野ざらしになっている。
今は汚染レベルが低くなって、防護服なしでも立ち入れるくらいになったけど、それでも地面から草木が全く生えないとの事だ。
そのゴーストタウンで米軍が怪獣と交戦しているが、相手が強すぎて押されてしまっているらしい。
運よく近くにいた僕達がその場に急行した時、耳をつんざくような音が聞こえてきた。
――ドオオン!! ドオン!!
木の骨組みだけの家や瓦礫、何らかの鉄骨が広がっている無人の町。
そのゴーストタウンの中に2台の戦車があって、前方へと砲撃を仕掛けていた。
喰らっているのは、灰色をした巨大怪獣。
猛禽類を思わせる頭部に、鋭い鉤爪を備えた四肢。
さらに背中からは、翼の生やした両腕がもう1対持っている。
それはあたかも有名な幻獣――グリフォンを2足歩行にしたような姿だ。
「ヒメ、僕を乗せてほしい」
「はい、かしこまりました!」
距離が遠すぎるので、まだまだ攻撃しづらい。
僕は真の姿になったヒメの背中に乗り、現場へと向かった。
――ギュルルルルウウウウウ!!
一方で怪獣が砲撃を物ともせず、翼のある両腕で戦車を掴み始めた。
まるで段ボールを潰すかのように、ギリギリと強く握っていく。
操縦士は脱出も叶わないまま戦車ごと潰れてしまい、挙句の果てには戦車自体が爆発。
それを雑に放り投げ、怪獣は高らかに咆哮した。
――ギュルウウウウウウウオオオオオンン!!
「ヒメ!」
『はい!』
攻撃可能範囲に入ったところで、ヒメが水ブレス≪水流≫を放つ。
しかしそれに気付いたグリフォンが跳んでかわしてしまう。
ヒメは瓦礫の上に着地して、それから彼女の上に乗っていた僕が降りた。
「これは酷い……」
怪獣による壊滅を証明するかのように、多数の戦車の残骸がゴーストタウンに転がっていた。
米軍は特生対とは違い、積極的に近代兵器も使う傾向にある。
質より量の傾向だ。
もちろんアメリカなりに対怪獣装備を有している訳だけど、この惨状から察するに奴は大怪獣に違いない。
大きさはざっと30メートル……平均的な巨大怪獣の身長だ。
『大都さん、その怪獣は「グリフォン」と呼称されています。背中の翼が発達して、もう1対の両腕になっているのが特徴です』
「まるで阿修羅だね」
ヘリから離れた場合を想定して、インカムとマイクを常備している。
それで雨宮さんと連絡を取り合っているのだ。
『飛行怪獣は行動範囲が広く、危険性が高いです。どうか掃討をお願いします』
「了解。という訳で頑張るよヒメ」
『合点承知の助です!!』
僕らが戦闘態勢に入ろうとすると、何とグリフォンが明後日の方向へと飛んでいった。
ここから逃げる気か。
あるいは他の個体みたく人里に向かうつもりかもしれない。
「逃がさないよ」
≪龍神の眷属≫で召喚したドレイクをジャンプさせ、ハエを叩く要領でグリフォンを殴り落とす。
――グウウ!!?
グリフォンは一番高い建造物に当たって、派手に倒壊をした。
直後としてヒメが前進するので、僕は一旦ドレイクを消す。
対してグリフォンが粉塵の舞う中、ゆっくりと起き上がってきた。
『覚悟してもらいますよ! ≪水流≫!!』
彼女の十八番である≪水流≫が放たれる。
グリフォンは空を飛んでかわしたが、ヒメには予想通りだったらしく首を上へと上げた。
≪水流≫は奴の左脚を切断し、赤い体液を溢れ出させる。
グリフォンは苦痛の声を上げながら、後方へと着地した。
『≪
そこから殺傷力のある無数の泡を、グリフォンへと放った。
これでフィニッシュか……と思いきや、グリフォンが翼を大きく羽ばたかせた。
局所的な突風力で泡が押し戻されて、ヒメへと向かってしまう。
『わっ、わっ!?』
放った本人にもダメージが加わってしまうのか、慌ててかわすヒメ。
瞬間、それを待っていたかのようにグリフォンが飛びかかり、彼女の首を掴んで地面に叩き付けた。
『キャアア!?』
背後にあったボロボロの建造物を四散させてしまう。
グリフォンが凶暴な表情で睨むと、ヒメから息を呑む声がしてきた。
「まずい」
僕はヒメとグリフォンの間に障壁を発生させる。
ヒメの周りに障壁が出来た事で、グリフォンが弾かれる。
――ギュウウオオ!!?
グリフォンが障壁を破ろうと4本の両腕でひっかくが、そんな簡単には破れはしない。
僕は指から≪龍神の獄槍≫を5本生やした後、跳躍。
すれ違いざまにグリフォンの両腕と翼を斬り落とした。
――ギュアアアアアアアアアアアア!!!?
地面へと無造作に落ちる4本の腕。
今さっき片方の脚がヒメに斬られたので、奴が持っているのは脚1本だけ。
バランスが崩れて倒れた後、僕はすぐに奴の首へと向かう。
「終わりだ」
――ギュグアアアアアアア!!!
グリフォンが叫んだのは、最後の足掻きだったかもしれない。
ただその時にはもう僕の手によって首を斬り落とされ、ズウン……と地面に伏した。
「ふぅ……ヒメ、大丈夫?」
僕はヒメの周りを囲んだ障壁を消した。
すると彼女が怪獣から人間の姿に変わって、僕の方へと駆け寄ってくる。
「一樹様~!! 助けていただいてありがとうございます~!!」
「わっ」
なんと僕へと抱き付いてきた。
まるで絵麻みたいだな。
「奴に捕まった時、ちょっとヒヤっとしちゃいました! あの時助けて下さなければわたくし~!!」
「あ、ああ……それはどうも」
「やっぱり一樹様は優しいです~! さすがお館様の後継者です~!」
……ヒメが冷たすぎてちょっと困るな。
でもこんな姿を見せられると、離すに離せないというか……。
「まぁ、無事でよかったよ。ほんとに」
「はい、よかったと思います!」
全く……。
僕はそんな調子の良い事を聞いて、思わず苦笑してしまった。
『……あー、取り込み中のところ申し訳ないですが、まだ仕事が終わっていない可能性がありますので。すぐに合流をお願いします』
「あっ、ごめんごめん」
なんか雨宮さん、呆れた感じだったなぁ。
通話越しでも分かったよ。
ともあれヘリと合流して、次の目的地へと向かう。
操縦士が言うには、それでラストを迎えるらしい。
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グリフォンの翼は、ゴア・マガラの翼脚のような構造になっているイメージです。
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