第4章 流水を司る舞姫

第42話 喧嘩に巻き込まれる怪獣殺し

 夏休みが間近になって、授業も残り数回となってきた。


 僕達は体育館にいて、そこでスポーツの試合を行っている。


 まず男子がバスケットボール、女子がバレーボール。

 体育館を半分半分使って、2つの球技をやっている感じだ。


 なお僕は補欠なので、他の補欠員と共に試合を眺める形になっている。

 補欠員から離れていてポツンと1人になっている感じだけど、まぁ気にしない。


「頑張ってぇ池上君!!」


「五十嵐君やっちゃえ!!」


 バスケでは池上君と五十嵐君が活躍中だ。

 おかげで同じく補欠員になっている女子から、黄色い声援が続々と。


 池上君と五十嵐君はそれぞれ敵同士で、常にボールの取り合いをしていた。


 今は五十嵐君がボールを手にしている。

 サッカー部のエースなのだが、バスケもある程度できるらしい。


「くっ! しまった!」


 ただ池上君が中学の時にバスケやっていたらしく、するりと五十嵐君からボールを奪い取った。


 さらに相手チームの妨害をかわしにかわし、ゴールへとシューエキサイティン。

 ……なんてね。


「おお、やっぱ池上すげぇ!!」


「天才すぎる!!」


「いや、皆がサポートがあったからこそだ。五十嵐もサッカー専門にしては中々だったよ」


「そりゃあどうも! でも次はぜってー勝つ!!」


 こうしてみるとスポーツ漫画みたいだ。


 多分、女子達はそういうのが好きなんだろうな。

 彼女達の目が完全にそうなっている。


「隣、いいですか?」


 そんな時、声をかけてきたのは雨宮さんだった。

 

 少し驚いてしまう。

 人気のない場所ならともかく、こういう場で話しかけられた事などあまりなかったからだ。


「いいけど……君からこう来るなんて珍しいね」


「転入してから数ヶ月。ほんのちょっとの興味で、地味な男子に話しかけても不思議じゃないでしょう。それに声が響くので聞こえはしない」


「ハッキリ地味言ったね。別に気にしてないけど」


 体育館は色んな声が反響しているので、ちょっとやそっとでは会話を盗み聞きされないだろう。


「あれから森塚さんの様子は?」


「情報をバラまいた痕跡はありません。いつも通りにしています」


 森塚さんはバレーボールに専念中。

 といっても本人が苦手としているのか、後方で待機している感じだ。


「前に僕を困らせる事はしないって言ってたけど、本当にそうみたいだね」


「でしょうね」


「でしょうね?」


「言葉の綾です。それであなたのお爺様が伝えてくれた用件、今なお進行中です」


「そっか」


 実はこの間、特生対の言うバハムート……要はお爺さんからこんな事を告げられたのだ。


(一樹よ、お前達の力になれるモノが神の山に眠っておる。ぜひとも向かってほしい)


 場所については、お爺さんが僕の脳内に情報を流してくれたので問題はない。


 群馬県にある『比良坂ひらさか山』。

 かつて『神の山』とも呼ばれていたので、お爺さんの言葉に合致している。


 ただその『モノ』が『者』なのか『物』なのか、ハッキリと分からなかった。

 一応、聞いてはみたけど(それはお前自身で確かめてこい)と言われてしまう始末。


 とりあえずその啓示を未央奈さんに伝え、部下の諜報班を比良坂山へと派遣させている。

 僕達も休みになったら向かう事になっているのだ。


 ちなみにお爺さんの骨に意識云々について、雨宮さんが知った時には「もはや幽霊ですね……」とポカンとしたものだ。


「当日になったら先に行きますので。それで本当に電車でいいんですね?」


「うん。ヘリばっか使っているのも申し訳ないしね」


 未央奈さんは調査に不参加で、本部で後始末やらがあるらしい。

 その代わりに絵麻と森塚さんを連れていく予定だ。


「おい、大都」


 するとそこに五十嵐君がやってくる。

 なんか不機嫌そうな顔だ。


「どうしたの?」


「ちょっと」


 彼がくいくいと手招きしていた。

 不思議に思って向かってみると、彼が僕の肩に腕を回しつつ雨宮さんから距離を離した。


「何でお前が雨宮さんと話している訳? 一体どういう接点?」


 接点とか言われてもなぁ。

 もちろん「特生対関連での関わり」とか言える訳ないので、適当にあしらっておこう。


「バスケ眺めていたら、雨宮さんが僕に声かけてきたんだ。それで色々話してて」


「あのね大都君? 雨宮さんがお前に声かける訳ないだろ。今までロクに話さなかったんだからさ」


 まぁ確かに。

 

 ただそれは教室内での話。

 屋上前とか帰り道とかでよくするし、なんならラインで連絡もする。


 あとあまり関わりを持つと不審がられるので、お互いなるべく……といった感じ。

 今回は特例みたいなものだ。


「ほんとはお前が雨宮さんに話しかけてきたんだろ? 雨宮さんもお前に迷惑そうにしていたし」


「雨宮さんが迷惑していたら、適当に話終わらせて離れると思うけど。でも長い間話してたんだから、彼女そう思ってないと思うよ」


「うぐっ……お前なんかロクな青春を味わないまま、怪獣に踏み潰されるのがお似合いだ。雨宮さんに近付こうなんて……」

 

「怪獣に踏み潰されて……何です?」


 背後からの声に振り返ると、雨宮さんがそこに立っていた。

 すると五十嵐君が何故か慌てる。


「い、いや、コイツのろいから怪獣に潰されそうだなぁって。ああ、でも安心してくれよ! もしそんな目に遭いそうだったら、俺がすかさず助けるからさ! 俺、そういったヒーローに憧れているんだ!」


 ヒーローは「お前なんて踏み潰されるのがお似合い」だなんて言わないような。


 もしかしたら前の池上君みたく、僕を引き立て役にしているのかもしれない。

 もう慣れてしまっているから、あれこれは言わないけど。


「……五十嵐さん、怪獣を間近で見た事あるんですか?」


 そんな時、雨宮さんの目の色が変わったような気がした。

 五十嵐君もそうだけど、僕も少しだけ驚く。


「えっ? いやないけど」


「怪獣はこの世のものと思えないくらいに恐ろしい存在です。テレビからだと分からないですが、本当に目の前に現れたらそんな軽口すら言えなくなるんです。五十嵐さんはそうならないって保証ありますか?」


「……そ、それは……いや、そんなの分からないじゃないか! だって今まで特生対、ケツァルコアトルとかクラーケンとかヤバイ怪獣を倒してきたんだし! 俺も頑張ればあんなくらい!」


 珍しい。

 五十嵐君が女子に対して声を張り上げるところ、初めて見た。 


「よりによってその2体を出すとか……」


「はっ?」


「ともかく、その認識が甘いと言っているんです。特生対はそんなヒーローチックな組織じゃない」


「……もしかして雨宮さん、親が特生対関係者?」


「まぁ、そんなところです」


 さすがに自身が諜報班だと明かす事は出来ない。

 それに雨宮さんのお父さんもまた諜報班だったし、嘘は言っていない。


 特生対関係者の子供なんてわんさかいるので、それくらい明かしても問題はないと。


「でもさぁ、さすがにそんな言い方はないんじゃないか!? ちょっと厳しすぎだろ!」


「私は本当の事を言ったまでですよ」


「あのな、さすがの君でも……!!」


 雨宮さんに詰め寄ろうとした五十嵐君だけど、急に足を止めた。

 周りの生徒が五十嵐君達の事に気付いて、何事かとひそひそ話しているからだ。


「……気分悪いわ……」


 そう言って、彼が体育館の外に行ってしまう。

 風にでも当たるのだろうか。


「雨宮さん、何であんな事を」


「彼に現実を分からせようと思いまして。あのようないじめをいじめと思っていない人間なんて、特生対にはお呼びでありません」


「そこまで言う?」


 そうは言ったものの、あながち間違いではないかもしれない。

 怪獣から市民を守る特性上、防衛班に入るには厳重な精神鑑定が行われる。


 五十嵐君が合格できるかというと……彼次第としか。


「あと五十嵐さん、もし特生対に入ったら絶対後悔しますよ」


「後悔?」


「実名はともかく、特生対に入ったらいずれ≪怪獣殺し≫の事を聞くでしょう。彼のプライドはズダボロです」


 ……雨宮さん、五十嵐君に辛辣みたいだ。

 性格が悪くないというと嘘になるけど、そこまでして五十嵐君に酷評しなくてもいいような……。



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 ここまでお読みいただき、ありがとうございます! 第4章開始です。

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