第25話 森塚凛 視点2
「へぇそう、お姉ちゃん彼氏できたんだ」
『うん、とっても優しくてね。よく頭を撫でてくれるの』
朝食を食べた後、あたしは制服に着替えながら電話をしていた。
相手先はお姉ちゃんだ。
今はあたしたちの元から離れて、一人暮らしを始めている。
どうもあちらで彼氏さんが出来たらしい。
やっていけてるかなって心配してたんだけど、何とか大丈夫そうかな。
「彼氏さんもそうだけど、仕事とかも順調?」
『うん、順調。もし時間が出来たら遊びにおいでよ。私待ってるから』
「ありがとうお姉ちゃん。じゃあそろそろ切るねぇ」
『分かった。気を付けてね』
お姉ちゃんとの通話が終わっちゃった。
少し寂しくなるな。
でもお姉ちゃんだって頑張っているんだ。
あたしに出来るのは、お姉ちゃんが幸せでいてくれるよう願うだけ。
「凛! もう出る時間だよ!」
「はーい」
ちなみにあたしはお母さんと2人暮らしだ。お父さんは単身赴任中。
登校する前にメイクと髪型に乱れがないか確認。……うん、よし。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
あたしは教室に入った後、まっすぐ自分の席に座った。
一人でいるのが好きだから、あまり友達を作らない事にしている。
それにあたしを妬む女子が何人もいるんだから、こちらから願い下げって感じ。
「おはようございます」
「……!」
声をかけてきたのは雨宮さんだ。
彼女、あたしの席近くに座っているからか、よく挨拶はしてくれている。
「うん、おはよう」
あたしは彼女を嫌っている訳じゃないので、返事はした。
いやぁ、やっぱり雨宮さんって美人だなぁ。そんでもってミステリアスな雰囲気もあって孤高の花っていうか。
そういや女子に遊びに誘われた時には「バイトしている」とか言っていたけど、彼女何の仕事しているんだろう。
あまり表情は変わらないからレストランとかマックとか向いてなさそうだし、接客業も微妙そうだなぁ。
まさか人に言えない裏の仕事とか……いやいや、そんな事はないか。
まぁ、友達でもないあたしがあれこれ考えるのも野暮かもね。
というか暇だしソシャゲしちゃおっか。
おっ、新しい奴が面白そう。
無課金でも一応遊べるか……よしダウンロードしちゃおっと。
「あっと、ごめん」
「うわっ、ちゃんと前見てよね……ほんと陰気臭い」
この声……。
確認してみれば、大都君が教室に入ってきた。
昨日は早退したんだけど、特に問題はなさそうかな。
というか彼とぶつかりそうになったギャル、すごいムカつくな。
陰気臭いって言っているけど、あんたの濃い化粧よりも眼鏡を外した大都君の方が何倍もいいんだから。
ていうか大都君に挨拶しなきゃ。
別に挨拶くらい五十嵐も何も言わないでしょう。
でも自分から挨拶するのってちょっと緊張する。
「おは……」
「おっ、やっと来たか。昨日何で早退したんだ?」
うわっ、五十嵐達に囲まれちゃったよ。
大都君の方はどこ吹く風って感じだけど。
「ちょっと家の用事が出来ちゃって。そういえば昨日話があるとか言ったけど、一体何?」
「……もう尋ねるの面倒になったよ。ただな……」
五十嵐にはこれっぽちも興味ない。
ただ一体何の話しているのかは気になる。
こっそり耳を傾けていると、アイツが大都君に対してメンチ切ってきた。
「あまり調子に乗るんじゃねぇぞ。どうみてもお前は俺よりも下なんだから、身の程わきまえろ」
「そうそう、五十嵐は喧嘩つえーからな。お前なんてイチコロだっての」
五十嵐の取り巻きが嬉しそうに付け加える。
……っていやいや、大都君の方が数倍強いから。
間近で見ていたあたしが保証する。
というか弱いと思っている相手に自分の強さを示すなんて、マジ寒い。
ああいうのイキっているっていうだろうなぁ。
こんな事に他の女子が何とも思っていないのは、大抵五十嵐の味方か無関心でいるからか。
男子は十中八九、五十嵐の事が怖いのかもしれない。
あーやだやだ。
性格悪い奴がカースト上位にいると厄介極まりないよ。まさにボス猿。
というか……この状況を黙って見ているしかないあたしも同罪だよね。
「どうせ家の用事つったって大した事ねぇだろうがな。もしかして家族とか兄妹とかか?」
「いや、別にアイツは……」
「アイツがって事は兄妹いるんだな。お前の事だからさぞ暗い奴だろうなぁ」
うわぁ、兄妹は関係ないでしょう。マジ最低。
それを聞いた大都君は珍しく黙ってしまった。
すると目を細めて……。
――ゾクッ!!
この寒気、ナンパの時と一緒……。
しかも何か……ヤバい!!
「ね、ねぇ!」
「ん?」
「今あたし勉強しているからさ! 静かにしてくれない!?」
気付くと、あたしは教科書とノートを出していた。
何やっているんだろ……このまま五十嵐達を黙らせてもいいのに、何故か庇う形になっちゃった。
いやむしろ「大都君を怒らせちゃいけない」って本能で感じたのかも。
「ああ、ごめん森塚さん。……ふん……」
五十嵐が不満そうな顔をしながら席に戻ってしまった。
無意識に安堵の息を吐いてしまったあたしだけど、そこに大都君が近寄る。
「森塚さん、おはよう」
「…………」
「あれ、森塚さん?」
「あっ、ごめん……おはよう」
もう大都君にはさっきの殺気はなかった。
怖かったとはいえば怖かったけど、彼の穏やかな表情を見ると安心してしまう。
現金だな、あたしって……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます