第19話 怪獣殺しの模擬戦終了

「……嘘だろ、壁に穴が……」


 榊原さんが自分の周りを見渡していた。

 僕が放った≪龍神の劫火≫によって、床や壁に破裂したような穴が広がっていた。


 うん、ちょっとやりすぎた……。


「隊長! 確かこの壁にミスリル使っても傷付かないって言ってましたよね!?」


「うん、言ったよ。怪獣の外殻を混ぜ合わせた特殊合金……これに傷を付けられるのは大怪獣の攻撃くらい。つまりそういう事なんだよ」


「信じられねぇ……なぁ、あんたほんとに人間なのかよ!? ミスリルなしでこれほどの力なんて!!」


 ドレイクを消している間、榊原さんが必死に僕に問い詰めてくる。


 僕の力を見た者は皆あんな顔をする……見慣れたものだ。

 それにもちろん答えた。


「ええ、人間ですよ。紛れもなく」


「いやいや、絶対に何か秘密が……」


「申し訳ないですが、これ以上は機密事項なのでお答えできません」


「そうだぞ榊原。≪怪獣殺し≫の情報は私でさえ全容知らないんだ。あまり深入りするな」


 僕だけではなく高槻さんに言われて、榊原さんは口をつぐんだ。

 そんな彼の肩をポンと叩く高槻さん。


「まぁ信じられないのは無理ないよ。だからこそ私達はそれを公にしないようアレコレ頑張っている訳。ぶっちゃけイキっている場合じゃないゾ♪」


「…………」


 高槻さんが満面の笑みを浮かべているのに対し、榊原さんの表情が呆然一点張りだ。

 理解が追い付かないのがよく分かる。


「それよりも新型ミスリルの性能はどうなの?」


『報告します。武器の威力、耐久性と共に問題はなし。ただ冷却に少し不備があるようなので、その辺は調整が必要となります』


 今度は未央奈さんじゃなく、科学班の研究員らしき声が聞こえてくる。

 それを聞いて高槻さんが「そりゃあ、戦場では命取りになるね」と呟いた。 


「榊原、聞いた通りだよ。完成するまで前のミスリルで我慢しな」


「……了解です」


「それじゃあ、私らはこの辺で。今日も付き合ってくれてありがとうねぇ」


「いえ、こちらこそ」


 僕が一礼をした後に、両名がミスリル実験ルームから出て行った。

 それから僕は元の服装に着替え直し、会議室で待っている絵麻達と合流した。


「兄さん、お疲れ様!」

 

 部屋に入ると絵麻の歓迎が待っていて、何と僕の胸に飛び込んできた。

 少し驚いたけど……やっぱり可愛いな絵麻は。


「ほら、皆が見ているよ」


「あっ、ごめんね……。でも兄さんの活躍が見れてよかったよ」


 絵麻は戦場に出ないし、何より僕の戦う姿なんてニュースとかに映し出されない。

 間近で見れるのはこういった模擬戦くらいだ。


 僕が絵麻の頭を撫でると「エヘヘ……」と嬉しそうにしてくれた。

 そしてその様子を見ていた未央奈さんも、嬉しそうに微笑む。


「フフッ、本当に仲がいいわね……美しき兄妹愛って感じ」


「美しきは言いすぎですよ。それにこんなの普通ですって」


「いや普通じゃないからね」


「?」


 まさか突っ込まれるなんて……。

 それに普通じゃないって言われてもピンと来ないというか。


「ご、ごめんなさい未央奈さん……」


「いやいや、別に絵麻ちゃんが謝らなくてもいいって。お兄ちゃんの鈍感は今に始まった事じゃないし」


「ごめん2人とも、一体何の話を……」


「とりあえず一樹君、性能テストの手伝いお疲れ様……と言いたいけど、やりすぎて相手の戦意を落としてしまったわね」


「それに関してはすいません」


 新型ミスリルの性能テストなのに、出しゃばった面もあった。

 これは十分に僕が悪い。


「でも高槻隊長が言ったように、榊原隊員には調子乗る面があったからね。彼にとってはいい薬にはなったでしょうに。あと飛鳥ちゃんね、あなたがドレイクを出していた時に口あんぐり開けていたのよ」


「そうなの、雨宮さん?」


「いえ……ああいうものを見せられたら誰でもそうなりますよ……」


 まぁ、それはそうなるか。

 あくまでエネルギー体とはいえ、怪獣を生み出す人間なんている訳がない。


「とにかく一樹君、あなたのおかげで新型ミスリルの開発が早く進むわ。ぜひともお昼奢らせてくれる?」


「未央奈さんがそう言うのならいただきますね」


「未央奈さん、ありがとう」


 絵麻も丁寧にお礼を言った。

 そうして食事に向かおうとした時、未央奈さんのスマホから着信音が流れた。


「私よ…………分かったわ、その映像をこちらに流して。皆、どうも東京湾に怪獣が現れたそうよ。それも複数」


「複数?」


 僕が怪訝に思っている中、スマホの画面が海面を映したものになった。


 これはヘリに乗った諜報班が撮影していると思われる。

 その海面には、赤黒い大蛇のようなものが泳いでいた。


 目を凝らしてみれば、それは海老みたいな甲殻類のようだ。

 甲殻類が群れを成して泳いでいる……だから遠目で見ると赤黒い大蛇のように見えるのだ。


「今、上陸ポイントに防衛班が向かっているところよ。今回は大怪獣じゃないから大丈夫と思うんだけど」


「そうですか。……絵麻?」


 僕の隣で見ていた絵麻が、スマホに穴が開くのではと思うくらいにじっと見ていた。

 

「……この子達、何か必死になっているみたい」


「分かるのか?」


「うん……もうちょっと近くに行けば分かるかも」


「……未央奈さん、現場までヘリで送ってくれませんか。怪獣の目的が分かるかもしれません」


 絵麻はただ適当に言った訳じゃない。


 僕とは違い、絵麻は怪獣の思考を手に取るように感じるそうだ。

 そこから何を目的としているのかというのがハッキリできる訳。


「分かったわ。今、手配するから」


「お願いします。……絵麻ごめん、こういう時にお前の能力に頼っちゃって」


「ううん、これくらいならいいよ」


 一応、前にも絵麻に怪獣の目的を確認させた事もあった。

 ただ『絵麻を戦場に出さない』というポリシーから脱線気味になっていて、複雑な気分だ。


 かといってここで絵麻は何もしなくてもいいとも言えないし、加減が難しいな……。


 ともかく僕には怪獣の思考は分からないものの、この甲殻類の動きが妙なのは感じ取れる。

 何かの前触れでなければいいのだけど。

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