第8話 特生対諜報班 視点
「こちら諜報班。ただいま
特生対諜報班を乗せたヘリが、大きな山へと向かっていった。
富山県某所に存在する『大鬼山』。
人里からかなり外れた場所に存在し、標高1628メートルもある山。
また広範囲に渡って森林限界(環境などが原因で樹木が生えない現象)を起こしており、足元程度の草むらが生えているだけだった。
その山頂から今、黒い煙がもくもくと立ち込めている。
活火山である大鬼山が噴火寸前らしく、その影響か関東にも伝わるほどの揺れを生じていた。
この報告を受け、特生対富山支部は諜報班を派遣。
諜報班のヘリは大鬼山を観察するように旋回していた。
「やはり……マグマの中に生体反応が感じられます。しかも3年前よりも濃い」
「活性化しつつあるという事か……」
部下の報告を聞いて、諜報班の隊長が表情を曇らせた。
彼らはソナーとサーモグラフィーを応用した生体反応探知機を使用している。
画面は大鬼山の山頂を映したもので、サーモグラフィー効果によって赤に染まっている。
しかしその中に黄色と緑が合わさったような物体が収められていた。
サーモグラフィーにおいて、黄色と緑は赤より低い事を意味している。
つまりこの物体は、赤を示しているマグマとは別物という事だ。
そしてその物体が微かにだが動いており、生きている事を示している。
「防衛班、防衛班。こちら諜報班、火山の中の反応が徐々に強くなっています。これはまさしく目覚めつつあります」
『了解。進路予定コースの住民の避難は完了している。分析が完了次第、退避せよ』
隊長が無線で報告する。
実のところ諜報班はこうなる事を予期していた。
怪獣の掃討を専門とする特生対は、まず斥候である『諜報班』を派遣する。
伝承、痕跡、目撃情報を元に怪獣を捜索するのが諜報班の生業だ。
そして怪獣が出現した場合には、戦闘のプロフェッショナルである『防衛班』を派遣……これを掃討する。
最後に残った怪獣の死骸などは『科学班』に回され、怪獣対策も兼ねて研究解剖を行う。
これが特生対の仕組みだ。
諜報班は火山の中に怪獣が潜んでいるのを、数年前から察知していた。
こういう怪獣が眠っている場所には、監視施設を作ったり爆薬を設置したりするが、今回は場所が場所なのでヘリから監視するしかなかった。
火山内のマグマが上昇しているという大鬼山観測所の報告を聞いて、来てみればこの結果だ。
これは自然による噴火ではなく、内部の怪獣が目覚めようとしている。
諜報班は一目見てそう察した。
「超高温、超高圧のマグマにも耐えられる怪獣……もし目覚めてしまったら防衛班が勝てるかどうか……」
「それは我々が考える問題ではない。それにここにいると危険だ、そろそろ退避しよう」
「りょうか――」
その時、火口からマグマが噴き出す。
赤い液体が噴き出すたびに、轟音と衝撃波が放たれる。
それらが旋回しているヘリに襲いかかった。
「急げ、巻き込まれるぞ!!」
そう指示した隊長が火口を見やると、表情を呆然とさせた。
火口から巨大な生物が這い上がろうとしている。
まずプテラノドンにも竜にも見える獰猛な頭部が見えた。
続けて青色の外殻を身にまとった身体、最後に巨大な翼を持った前脚が露わになる。
――ギュオオオオオオオオオオオンン!!
翼竜型怪獣だった。
火山の噴火にも劣らない咆哮を上げながら、怪獣が大きな翼を広げていた。
「……こ、こちら諜報班!! 怪獣が、怪獣が目覚めました!!」
まさか今になって目覚めるとは、このヘリに乗っている全員が思ってみなかった。
いち早くその場から退却するヘリ。
しかし不幸な事に、翼竜型怪獣がヘリを見つけ空を羽ばたいた。
真っすぐにヘリへと向かってくる。
「た、隊長!!」
「やむをえん!! 『
諜報班はおもむろに発射筒を取り出す。
攪乱弾。
対怪獣用に開発された特殊弾であり、その名通り怪獣を混乱させる為に使われる。
「撃てい!!」
発射筒から糸を引いた火が飛ぶ。
それが翼竜型怪獣の前で破裂した瞬間、閃光と塵が入った煙が拡散した。
閃光で目を潰しつつ、嗅覚を狂わせる匂い煙の同時効果。
これを喰らって怯んでいる内に逃げる算段だ。
「よし、このまま大鬼山から離れるぞ!」
「了解!!」
怪獣の意識がハッキリする前にと、ヘリが急速に離れていく。
――ギュオオオオオオオオオオオンン!!
しかし隊長が振り返ると、煙の中から怪獣が現れた。
彼が最後に見たのは、近付いてくる怪獣の大きな口と鋭い牙だった……。
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