第22話 お星さまの仲間

 フォルスさんがため息をついた。

 「でも、ここのところ、街の連中って、ほんと、そういうの気にするようになったよなぁ」

 「はい?」

 「ここのところ」、ということは、最近のことなのだろうか?

 「いつごろからですか」ときこうとして、その問いはここでは意味がないことにあらためて気づく。

 「やっぱり空が暗くなって、気分まで悪くなってきたんだな、あいつら」

 キロンさんも相槌あいづちを打つ。

 アンは驚いた。

 「へっ?」

 空が夕方のように暗いと思っていた。前はそうではなかった、ということなのだろうか。

 アンは、きいてみることにした。

 「空って、もともともっと明るかったんですか?」

 「あ……ああ……」

 キロンさんは言って、アンの顔を上目づかいで見た。

 「あんた、鍵の乙女だってことだなぁ」

 「あ、ああ……」

 自分でも忘れそうになっていた。

 「なんだか、そうらしいですね」

 アンは、わたしにはよくわからないんですけど、と続けようとした。でもその前にキロンさんが言う。

 「ということは、お星さまの仲間なんだよな」

 「はい?」

 そんな話はきいていない。

 でも、フローラも含めて子どもたちが何も言わないところをみると、そうなんだろう。

 ここでは。

 だから、いや、星ってそういうものではなくて、地球からずっと離れた遠いところにあって、などと言っても、だめなのだろう。

 ここは、アンが習ったのとはぜんぜん違う仕組みでできている。そう考えると、年も日も時間もないのも、なんとなく納得できると思う。

 「わたし自身には、そういうのってよくわからなくって」

 キロンさんとフォルスさんは、顔を見合わせた。

 「いや、だからさ」

 おませなエルクリナが口をはさんだ。

 「空がこうやって明るいのはお星さまのおかげで、そのなかでも力の強いお星さまが地上まで降りてきたのが鍵の乙女だって」

 なんだかまたよくわからなくなってきた。

 強い「力」って何だろうか?

 腕力ならば、アンにはそんなものはない。

 お姉ちゃんならばたしかに腕力は強い。る力はもっと強い。

 でも、そういう「けんかに勝つための力」のことではなさそうだ。

 そう思って、キロンさんとフォルスさんを見上げ、照れ笑いしてみようと思って、ふと気づいた。

 ここでは、アンは自分が「背が高い」ということを感じない。

 キロンさんもフォルスさんも、アンの知っている大人たちと較べてそう背が高いわけではないけれど、アンから見て普通だ。

 ここで働いている人たちもそうだ。さっき、街で、大人たちも背が低いと感じたあの感じがない。

 そういえば、さっきも子どもたちは服のことだけ言って、背丈のことは言わなかった。

 海辺の人たちと街の人たちは、「種族」とかいうものが違うのか?

 キロンさんとフォルスさんは、しばらく顔を見合わせていた。歳上のキロンさんが言う。

 「ところで、あんたたち、その麦粉の値段のことを確かめたら街に戻るのかね?」

 「ええ」

 アンが答える。フローラもいっしょに頷いた。

 キロンさんは子どもたちも見回して、言った。

 「じゃあ、海辺のほうを歩きながら話そうか」

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