青い光
清瀬 六朗
鍵の乙女
第1話 ウィンターローズ荘
なだらかな丘のいただきに立つ高い樫の木はまだ葉を落としたままだ。
この高い樫の木は、春から秋まではいっぱいに葉を茂らせ、ここに住む人たちを温かく見守ってくれている。葉を落とした冬も、この木が天に向けて細い枝をせいいっぱい伸ばしている姿がここに見えるだけで、守られ、励まされていると感じる。
けれども、いま、暗い夜空に突き立つように、夜空の星のめぐりに挑みかかるようにまっすぐに立っているその高い木は、まるで違って見えた。
だれを守ろうとしているわけでもない、それどころか、だれの助けも寄せつけないまま、勝てもしない勝負を挑んでいるような、そんな姿に。
だから、アンは、その樫の木のてっぺんのほうに目をやったまま、しばらく動きがとれなくなっていた。
強い風が、短く、ひとしきり吹いた。
アンは思わず襟に手をやる。
春の日射しは強くなったのに、夜はまだ冬と同じように寒い。
風に樫の木の細い枝がざわめいてもいいはずなのに、何の音も聞こえない。
アンはふっと息をついた。後ろを向いて、ウィンターローズ荘を見回す。
ひとところの明かりも見えない。
広いこの荘園で、いまも起きているのは、アン以外にだれもいないのだろう。
お姉ちゃんも寝てしまった。それは確かめた。
子どものころから育った場所、これまで生きてきた時間の大半を過ごしてきた場所だ。
でも、明日にはこの荘園を出て行かなければならない。
追い出されるように。
いや、「ように」ではなく、追い出されるのだ。
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