憑陰家にて
「なんか、今日退治した霊は何時もとは違った気がするんだよな…」
真夜中に、ぶつぶつ呟きながら出歩いている青年が一人。
名を、
折角、端整な顔立ちをしているのに前髪が長くて隠れており、襟足が長い髪型。藍色の瞳をした猫目が特徴で、黒縁メガネ(伊達メガネ)をしている。
そして、今年十九になったばかりの極々普通の大学一年生。
…まあ、あくまでも〝表では〟の話だが。(いや、そもそも真夜中に出歩く所から普通ではない気はするけどね?by逸架)
「なんと言うか…懇願…?」
霊から感じたのは、そんな感じの気配だった気がする。
「んあー…何時もとは違う感じだから気が狂うな…」
ぐいーっと手を頭の後ろで組み、背筋を伸ばした。
「…まあ、その辺は当主に聞けばいいか…。」
「逸架」
不意に、逸架の名を呼ぶ若い女性の声が聞こえた。
「!…当主」
考え事をしている内に家に着いていたみたいだった。
「お帰りなさい。怪我は無い?」
「うん、多分、平気」
「…そう。ほら、何時までも外に居ては身体が冷えてしまうわ。早くお上がりなさい。」
「うん。…当主…燈稀さん」
彼女は、憑陰
二十八歳の独身で憑陰家現当主である。
黒髪のロングを軽く巻いている女性。
黒いゴシック系のスーツを好んで着ていて、逸架と同じく、少しキリッとした藍色の瞳ですらっとモデル体型。所謂、綺麗め美人。
「此処では、義姉さんと呼んでいいって何度言ってるかしら?」
「ぁ…ごめんなさい…」
「…謝って欲しいわけでは無いわ…。只、〝九年間〟経った今でも、さん付けで呼ばれてしまうのは、少し寂しく感じてね…?」
「…ごめんね…、燈稀さん…」
「…いいのよ。今迄の逸架がされてきた仕打ちの事を考えたら、仕方ないわ。」
「でも、燈稀さんの事を信用してない訳じゃないからね。」
「分かってる。分かってるから、そんな顔しないでちょうだい…逸架」
そう言って、立ち止まった燈稀は辛そうで哀しそうな顔をしている逸架の頬に手を添える。
「うん…有難う…燈稀義姉さん」
ぎこちない笑みを浮かべ逸架は、そう言った。
・
憑陰家───
代々、祓い屋を生業とする家系。
憑陰家の家系には、憑き物を視る事が出来る霊視を持った子供が生まれ、その子供達が後を継ぎ、これからもこの家系を
何時しかそんな風に、成り立っていた。
そして、憑き物を見定め、手遅れとなったモノ達の〝始末〟をする家業…つまりは〝憑き物殺し〟を生業とし、唯一、祓い屋家業の中で、刀等の武器を所持する事を赦されている家業でもあるのだ。
・
「それで、逸架、何か収穫はあったかしら?」
逸架と燈稀は応接室―――普段、依頼人に依頼を承る為に使われる部屋だ―――で話していた。
「収穫、とまでは分からないけど、今回の霊から感じた霊気は〝怨み〟では無かったよ。当主」
「怨みでは無い…?どういう事?」
「うん…、なんか、懇願してるみたいだった。」
「みたいだった」、と言う言い方をするのは霊の本心の聲が聞こえなかったからだった。
「…懇願…、何か、見つけて欲しかったのかしら…?」
「あと、多分、、今回の依頼人…宮田…だっけ、彼奴何か隠してる…いや、嘘を憑いてる…?」
「嘘を憑いてる…?何か視えたの?」
「いや…憑き物は視えなかったんだけど…何か、雰囲気が…」
「…そう。…黒銀」
《はい、何で御座いましょう当主様》
「調べて欲しい事があるの。…後は、〝
《承知致しました》
黒銀の気配が遠ざかった。
「…え、燈稀さん、〝彼奴〟にも言う気…?」
「仮にも、彼だって当主よ?そんな事言わないの。逸架」
苦虫を噛み潰したように顔を顰める逸架を苦笑して、そう言って宥める燈稀。
「はぁ…、あんな形をしていても実力は確かだし、当主だもんなあ…彼奴…」
「ははは…」
呆れと苦笑を浮かべるしかなかった二人なのであった
・
人里離れた山奥に建つ和と洋が混じったような大きな屋敷。
其処には、一人の男性と人ではないモノが住んでいた。
《〝
「…!…黒銀。」
《……。》
「ふーん……。〝嘘憑きの依頼人〟…ねぇ…。まあ、逸架が言ってるのなら確かなんだろう。…〝
《はい。》
「了解の旨を伝えてくれ。俺は黒銀と話がある」
《御意》
そう言うが否や、梛知は神妙な面持ちで黒鉄に向かい合った。
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