好きだった

I’m諺

好きだった


 戦いは終わった。

 もう誰も争わなくていい。


「ねえ、ディー。やっと僕らが望んだ世界になったんだよ」


 横たわる愛する人の冷たい手を取る。


「いくら疲れたからってこんなとこで寝ちゃ駄目じゃないか。風邪引くぞ」


 暖めようと握り締めた手に僕の熱が宿ることは無く、ただそれはひんやりとしていた。


「いつも僕にちゃんと休めって言うくせに。ほら、起きてよディー」


 白い頬に触れる。

 まるで陶器のようだ。

 泥のように眠るディーを見つめる。

 揺さぶる。

 だがその以外にも長いまつげに縁取られたキラキラした目は開かない。


 そんな僕らをアゼルさんが見つめていた。


「ルイス、もうやめろ」


「なんで? どうしてさ。ディーは疲れて眠っちゃったんだよ。連れて帰らないと」


「その必要は無い。もうそいつは帰れない」


「大丈夫だよ。怪我してるかもしれないけど、僕が治すから」


「そうじゃない」


「早く帰らなきゃ。ねえ、今日はパーティーだよ。戦いは終わったんだ」


「ルイス」


「帰って薬の準備もしなきゃ。全く、いつもディーは無茶ばかりするんだから」


「やめろ」


「みんなも呼んでパーティーしよう、仲直りだ。もう誰も死なずに済む」


「アディ=ルイス!!」


 勢い良く肩を捕まれ、アゼルさんの方に振り向かされる。


「諦めろと言ってるんだ……!」


「諦めるって何を?」


 その顔は苦痛に歪んでいた。

 僕はその理由がわからない。


「もう、そいつは……」


「何言ってるの、アゼルさん。冗談はやめてよ」


「ルイス……現実を見ろ」


「僕は正気ですよ。貴方こそどうしたんですか」


「アディ=ルイス……!」


「その名を呼ぶな!!」


「僕は狂ってなんか無い! 僕は俺じゃない! その名を呼んでいいのはディーだけだ!!」


「わかってるんだろう、お前だって」


「わからない! 僕には、俺には! わかんねえよ! だって、そこにディーはいるじゃないか!」


「もうそいつは」


「やめろ! 触るな! 俺は……僕は…!」


「そいつは、死んだ! もう戻ってこない!」



 ねえ、ディー。

 置いて行かれるのがこんなに辛いなんて知らなかったよ。

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好きだった I’m諺 @monukeno_atama

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