夢現の世界に生きるもの

Rear

プロローグ


「君はどこから来たの?」


ふっとそんな女の子の声が聞こえた。

俺はその声に応えるように目を覚ました。

俺の名前は、夢堺現人。歳は、18歳だった気がする。

と言ってもそう思える原因は俺の体質の特異性によるものだ。


俺の体質は夢の中で生きる。現実と夢の境目が曖昧になる体質

ある意味ではとても便利なものだが、俺は夢の中でも生き、現実でも生きる。

その結果、俺はきっと何十年・・・・・・

いや、下手すれば何百年という時間を過ごしているかもしれない


だからもこれもきっと夢なのか?

いや、もしかしたらこれが現実なのかもしれない。


「君は!どこから!来たの!」


と、またあの声が聞こえた。

そういえばそんな質問をされていた最中だったか?

けど俺はここに自分から来た覚えはない。


だから、最初から居たかもしれないし、

歩いてやってきたのかもしれない

どれだけ考えても答えが出なくて


「気が付いたらここに居たんだ」


俺は質問に対して、そんな風に答えた。

とても意地悪な人と思われただろうか?

まあ・・・きっと大丈夫だろう。


「迷子ってことね!」と俺に質問してきた子がいってくる。

「俺は迷子じゃない」

「どこから来たのかもわからない癖に?」

「うっ・・・。」


この声の主は、痛いところを突いてきやがる。

「そろそろこっちを向いてくれてもいいんじゃないかな?」

少し不満げな声が聞こえてくる。俺は声のした方を振り返った。


振り返ったその先にいた女の子は、まるで女神のような美しい少女だった。

太陽の光を吸い込んだような綺麗な赤毛のロングヘアーに、

同じく炎を宿したような赤い瞳。

白色のワンピースから除く肌は、ワンピースに負けないぐらい白い

街に出ればスカウトは絶対来るし、

テレビに出てると言われたら間違いなく信じられる。


だから、俺はこの少女に興味が湧いていた。

「君こそどこから来たんだ?」

そんな、女の人をナンパする男のようなセリフを言ってしまったが、

仕方ないだろ・・・生憎だが女の人に話しかけたことは少ないんだ。


「う-ん・・・私も分からないんだよね」

「お前の迷子じゃねえか」

「そうみたいだね。けど良かった」


少女は安堵の溜息をついて、俺に向かって左手を差し出した。

そして、澄んだ声で俺に言った。


「お互い迷子だけど、2人なら寂しくないね」


そんなことを言って、少女は笑った。その笑顔は百点満点の笑顔だった。

俺はしばらく少女の顔を見つめて、「そうだな」っと言って俺も笑って少女の手を取った。


俺は、彼女の名前も、年齢も、何も知らない。

俺の手を取ってくれた少女とは、もう会っていない。

きっとあれも夢だったのだろう

だから、あの温かくて明るいあの時間は、きっと・・・もう訪れない。

あのまほろばの夢は、あの少女は、

溶けて消えてしまったのだろう。

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夢現の世界に生きるもの Rear @rear0822

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