正体を知る2-5

「イザヤはとても強いよね。教室での喧嘩の時あの男の人の攻撃をいとも簡単に受け止めていたし、口ぶりから魔族を殺したことがあるようだった」

「強いなんてことはないだろ。潤華だって十分に強いし、あの男に関しては、僕が強いというよりあいつが弱すぎると言ったほうがいい気がするな。実際問題あれは僕じゃなくても簡単に受け止められたと思う。だから僕がすごいというわけではないと思うけれど。魔族に関しては・・・・まぁ、僕の親戚がハンターだったからその過程でちょっとだけな」

 翼たちに話した時同様、完全にきょどってしまった。

 潤華は「ふーん・・・・」と言って、舐めるように僕のことを見て怪しんでいた。

 翼たちのような鋭さはないようだから、すぐに嘘だと決めつけられることはないようだけれど、それでも怪しんではいるようだった。

「まぁいいや。イザヤの親族が何をしている人でも関係ないからね。けれどイザヤの戦い方は異常だったよ。あんな風に魔族と戦う人は見たことない。まるで携えている魔具が飾りみたいだったし、刀の使い方も初心者よりなっていなかった・・・・それでよく魔族を狩ってきたね。親戚の人は何も教えてくれなかったの?」

 やっぱり怪しんでいる。できる限り魔族だということがばれないように戦ったつもりだったのだけれど、そんなにおかしかったのだろうか。

 だとしたらあの場にいた人も、あの試験を見ていた人たちも怪しんでいることになるよな。

 だからあの人も僕の戦い方について聞きたかったのか。

 もしや翼達も怪しんでいたり? 

 あの試験は外からでも見ることができる。ならば在校生から見ても怪しかった? 

 刀堂先輩の口ぶりから考えるに、僕たちが今回の試験が合格できている確率はとても高い。それならこれからの学園生活のなりふりも考えなくてはいけなくなる。

 どこかのタイミングで僕の正体がばれることになっては、リアンとの計画も破産だ。そうなったらまた一から考えなくてはいけなくなる。

 彼のことをどう誤魔化そうか。僕を怪しんでいるであろう人がほかにもいる可能性がある。というよりほぼ確実にいる。

 その対処について悩んでいるときだった。脳内でリアンに話しかけられた。

『イザヤ、それならいっそのことその人に正体を明かすのはどう? 差別されることを嫌っているみたいだから、自分もそんなことをする人には思えないんだよね? どうかな?』

 急に話しかけられて驚いてしまった。潤華は僕が急に驚いたことに、驚いたようだった。

 より怪しさが増したようだった。怪しい人を見る目で僕のことを見ている。

「あはは、あぁ、ちょっとトイレに行ってきてもいいかな?」 

「なんか怪しい。私の質問はイザヤにとってそんなに答えづらかったの?」

「そ、そんなこと・・・・ないよ? ちょっと待ってて」

 僕がそう答えてトイレに向かおうと立ち上がったら、潤華も一緒に立ち上がった。

「え、な、なに? なんで潤華も立ち上がるの?」

「このまま逃げられても困るから。時間を空けられるとうまく誤魔化せるから。何とでも言い訳は作れるでしょ? だからその見張り。別に中にまで入ろうなんて思ってないよ。ちゃんと外で待ってる」

「に、逃げないよ。それに男子トイレの前で待ってるなんて変態だと思われるよ。在校生の人はまだいるみたいだし」

「別に構わない。イザヤにここで逃げられるほうが私にとっては不都合が多い」

 困った。潤華についてこられては、リアンと話せない。

 リアンは脳内に直接話しかけられるみたいだけど、僕はそんな芸当がまだできない。だから小さい声でもきっと出てしまう。

 潤華からすれば、トイレの中で急に一人でぼやき始めた奴に聞こえるだろう。そうなれば潤華からの僕の評価は、もっと怪しい人になってしまうことは確実だ。

 それに潤華の評価だって下がってしまうだろう。

 言った通り、まだ在校生も多く残っているこの学園で男子トイレの前で待っている人、というレッテルが編入前からついてしまっては、あまりにも不名誉なものだ。潤華がいいとしても、僕が嫌だ。

 と、少し考えた末にいい案が思いついた。

「じゃあこれを渡しておくよ」

 そう言って僕が渡したものは、僕のスマホだ。

 スマホを急に渡されて潤華も驚き、不思議がった。

「急に何? イザヤのスマホなんていらないんだけど。この中に入っている情報を勝手に見ろってこと? パスワードがかかっているから見られないんだけど」

「どういう思考だよ。それと勝手に開こうとするな・・・・そうじゃない。僕の個人情報の塊を潤華に渡せば、僕は逃げるに逃げられないだろう? もし五分以内に帰ってこなければ、その携帯をどうしてくれてもかまわない。一応携帯のパスワードをここに書いていく。帰ってこなければ見てくれて構わない。それでどうだ」

 僕は紙に自分のスマホのパスワードを書いて、机に置いた。

 潤華はとても怪しんでいたが、何とか納得してくれた。

 座りなおして、僕のスマホを自分のポケットに入れ、自分のスマホを取り出しタイマーを五分にセットした。

「イザヤがその扉を開けたらスタート。帰ってこなければ容赦なく私は開くから。何ならここにあるイザヤの荷物も勝手にあさらせてもらうから」

「怖いよ。でもまぁ、それでいいよ。それじゃあ」

 僕が扉を開けて、潤華は一秒のラグもなくタイマーをスタートさせた。

 僕はすぐ近くのトイレに全力で走り、個室に駆け込み、リアンを呼んだ。

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