魔族狩りの魔族
龍柳四郎
プロローグ
現代。人間と魔族が共存して生活している。
共存しているといっても両者の仲は悪い。互いが互いを物として扱い、互いが互いを自分の種の存続のために日々殺し合いが行われている。
魔族。
魔力を保有し、人間とはかけ離れた身体能力と、筋力を有し、その種にしか使えない特殊能力、〈オリジン〉を使う。
魔力の少ない魔族は繁殖能力に長けており、その魔族を見かけたところには千匹を超える魔族がいると言われる。しかし人間に及ぼす〈オリジン〉の影響も少ない。
反対に、魔力を多く保有する魔族は繁殖能力こそ劣るものの、たった一匹で人間の街が崩壊するほどの肉体神経を保有し、〈オリジン〉が引き起こす被害も甚大なものである。
その種が現れた場所には、多くの被害が出る。人間から見てみれば厄災そのものである。
魔族が人間を殺す理由。それは食料である。
世界中で多くの人間が毎日誕生するために、魔族からすれば食料として決して減らない、絶滅しない格好の的である。
自分たちが生きるため、自分たちが生き延びるため、この種を絶やさないために弱肉強食のルールにのっとって異種の生物を食らう。生命活動を維持するためにごく普通の行動である。
人間。
魔力を保有することができず、強靭な肉体を保有するわけでもない。この世界において脆弱という言葉をその身に体現する弱者である。
ただ、知識という武器だけを糧に、この世界を生き延びてきた。そして今日に至るまで多くの人間が生き残り、現代で一番多くの数が存在する種にまで成りあがった。
知識と数の利を生かして魔族を狩る。それが人間が魔族に対抗してきた手段である。
人間が魔族を狩る理由。それは種を絶やさぬための防衛本能の一つもある。しかしもう一つ、それは魔石である。
魔族の中心部には核という大事な機関があり、魔族が魔族たるための根源。人間でいうところの心臓や脳に当たる機関だ。
その中枢には魔石という石が存在している。核は魔族にとって生命活動を維持するうえで必要不可欠な機関であり、それを身体から剥離されればその場で灰となり、塵となる。
しかし魔石だけは剥離されてもその場に残り、その中には保有者出会った魔族と同じだけの魔力がこもっており、魔法を使うことのできない人間でもその力を行使することができた。
大昔、人間の知恵を駆使し、勇気ある大勢の人間によって魔族を狩ることに成功し、その時に手に入れた魔石を自慢の知識で改良し、自らの武力の糧とした。
それからというもの人間は、多くの魔族を狩って文明を発展させてきた。
発展した文明の中で魔石は、情報通信機器、車などの移動手段、生活用品、武器、防具、さらには娯楽に至るまで、様々な用途で使われ、日々改良に邁進する研究者が絶えなくなった。
魔石は多くの用途に使われ、様々な分野で使われるために、毎日枯渇気味である。そのため魔力を多く保有する魔石はそれだけで希少価値が付き、高値で取引されていた。
表向きには自分たちの種を守るため、魔族に自分たちが食われ尽くさないようにするため。けれど裏向きには、自分たちが楽をしたいがために、自分たちの文明の発展のために、多く
の魔族を狩っていた。
それを疑問に思うものも、不満に思う人間もいなかった。
魔族も人間を殺して食べる。魔族も人間を欲するように、自分たちも魔石の力を欲する。人間たちにある理解はそのようなものだった。
魔族が人間に与える影響を考えたら、些細なものだと誰もが疑ってなどいなかった。
このように互いが互いを利用して成り立つ世界にも、異分子が存在していた。
いた。過去形である。つまりは絶滅した。絶滅させられたのである。
人間を食料として食らい、魔力の供給のために魔族を殺し魔石を食べる。そんな両者にとって有害な異分子、それが──吸血鬼である。
多くの魔力をその身に宿し、高い身体能力を有し、吸血鬼の現れた場所には生物が残らないといわれるほどに食に貪欲であり、気性が荒い種である。
繁殖能力の低い吸血鬼でも、彼らにたてつく種族など存在せず、あっという間にこの大地の長として君臨したのである。
しかし、彼らは好き勝手やりすぎたのである。他の種から反感を買い、怒りを買い、憎悪を燃やし、結果吸血鬼は他の種族から一斉に反逆の狼煙を上げられ、繁殖能力に長けていない吸血鬼はそのまま絶滅の一途をたどったのである。
こうして異分子がいなくなった世界では、自分の種のための殺し合いだけが行われる均衡が保たれた元の世界となった。
現代日本。とある山奥地。見渡す限り田んぼが広がり、ぽつぽつと住宅街が建ち並ぶ。
そんなのどかな町にも人間と魔族の殺し合いは存在する。至る所に魔族の血痕も、人間の血痕もあり、それを魔石による魔力で上塗りして消している跡がある。
そこで暮らしているどこにでもいるよう学生、
イザヤの復讐と、少女の叶わぬ恋の物語が始まろうとしていた。
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