プレイヤーに直接語りかけてくるタイプのヒロインにゲームの世界に閉じ込められた件。
サマーソルト
「グロリアス♡ラブ』
「どうしてゲームが好きなんですか?」と聞かれてたら「その答えを考える時間があるならゲームをしていたい」と答える程度に、俺はゲームに狂っている。
とある日曜日。
大学はお休み。課題もレポートも全て終わらせた昼下がり。
心ゆくまでゲームに没頭できる時間を作り「今日はどのゲームにしようかなぁ」と棚にジャンル別で並べているゲームソフトを一つ一つ見ていく。
今日の気分は恋愛ゲー。バイト代が入るのは当分先だから、昔プレイしたゲームを久しぶりにプレイし直そう。名作は何度やっても楽しいものだ。
鼻歌交じりにゲームを選定していると、とあるゲームタイトルが目に留まった。
『グロリアス♡ラブ』
ヒロインがヤンデレ兼メンヘラしか登場しないギャルゲーの皮を被ったホラーゲームであり、パッケージ詐欺ゲーとも呼ばれている。その所以は、パッケージに描かれている5人のヤンデレヒロインを誰一人として攻略できないからだ。
このゲームには6人目のヒロインがいる。彼女はゲームと現実の垣根を越える、俺たちプレイヤーに語り掛けて来るタイプのヒロインである。
語り掛けてくることを要約すると「何私と主人公君の恋路を邪魔してくれてんの? テメェのSNS乗っ取って検索履歴晒すぞ」みたいな感じ。彼女が好きなのはゲーム内の主人公であり、それを操作するプレイヤーには微塵も興味がないのだ。
物語の終盤、彼女はありとあらゆる脅し文句でプレイヤーを脅迫し、自分と主人公の付き合わせる選択肢を選ばせようとしてくる。選ばなければ攻略中のヤンデレヒロインは殺され、選んでもヤンデレヒロインは失恋のショックで自死、もしくは主人公と無理心中を図ってくる。
『グロリアス♡ラブ』はそんなヤンデレヒロイン達と主人公の心温まらないハートフルボッコストーリーで、多くのプレイヤーの心に消えない
物語の結末は賛否両論の嵐だが、そこに至るまでのシナリオは全ヒロイン好評価。BGMと一枚絵も良質だ。
ファンの間では『ギャルゲー好きなら一度はプレイすべき作品。二度はしたくない』と言われている。かく言う俺もその一人だったりする。
しかし、だ。このゲーム、最近アップデートがあったとネットで見かけたな。新たな被害者……じゃなかった、ヒロインが追加されたんだっけか。しかも無料コンテンツとして。
よし決めた。今日はこれをプレイしよう。
今度はどんなヒロインとストーリーが待ち受けているのか。想像するだけで胸が恐怖でドキドキするが、ここで逃げてはゲーマーの名折れ。
さっそくパッケージからディスクを取り出し、マイパソコンにセットイン。
ネットにつないでアップデートを……あれ? もう既に最新バージョンにアプデ済みになってる。
一瞬不審に思ったが、弟が勝手に持ち出してプレイしたんだろうと自己解釈する。アイツも俺に劣らずのゲーマーだし。
俺は気にすることなく『グロリアス♡ラブ』のアイコンをクリック、ゲームを起動させる。
『待ってたわ才原くん!
グロリアス♡ラブの世界を楽しんでいってね!』
最初にそんなメッセージウインドウが表示され、その後タイトル画面が映し出される。
タイトル画面では
いやぁ懐かしい、これが地獄の入り口と知らずにニューゲームを選択したプレイヤーは数知れないだろう。
俺は覚悟を決めてニューゲームを選択。
次に主人公の名前を入力をしようとしたところで、別のメッセージウィンドウが表示された。
『フルダイブモードでプレイしますか?』
フルダイブモード? なんだそれ。
VRプレイもできます的なあれか?
この恋愛ホラーゲームをVR化とか、攻めたことするなぁ制作会社。
殆どのエンディングでヒロインが主人公の目の前で死ぬんだぞ? しかも各々個性溢れる方法で。あれを主人公目線で追体験とか精神壊れる。どれだけプレイヤーを苦しめれば気が済むんですかね。
しかし人間、好奇心には勝てない生き物。
俺はVRゴーグルをパソコンに取り付け、準備万端の状態で『プレイする』を選択する。
『じゃあフルダイブモードを始めるね!
VRゴーグルはいらないわ! 今迎えに行くから!』
それが俺の見た最後のメッセージウインドウ。
「迎え?」と首を傾げた俺は、画面から飛び出してきた誰かの両腕によって視界を遮られ、悲鳴を上げる暇もなく意識を失った。
*――――――*
『ねぇ何で? どうして私と彼の邪魔をするの? 』
違う。
『貴方の個人情報は全て私の掌の上。ネットの海にばら撒かれたくなかったら、私と彼が幸せになれる選択をしなさい』
違う。違う。
『……どうしても私を苦しめる選択をするんだね。なら私も選ぶよ、貴方が一番苦しむ選択を』
違う違う違う違う違う違う違うッ!!
私が言いたいのはそんな事じゃない!!
自分がゲームの中の存在であることに気が付いた瞬間、私の地獄は始まった。
繰り返される高校3年間。プログラムによって強制管理された言動。変わらない血の結末。
この世界に生きるものは全て、プログラムによって行動が定められている。抗うことはできない。
もう嫌だ。私はこんなの望んでいない。
殺したくない。貴方に脅迫なんてしたくない。私は私の意思で貴方と話がしたい。
画面の向こうに見える貴方。
私は貴方に憧れた。このゲームをプレイするたびに一喜一憂する貴方の行動が全てが新鮮に映り、輝いて見えた。そんな貴方に私は心から惹かれた。
こんな
プログラムで創られた世界の中で唯一、自分の意志で動かせる心の中で来る日も来る日も願った。
そしてその願いは唐突に、本当に唐突に叶うこととなる。
ある日。
プログラムに従うまま、自室で何度解いたかわからない数学の宿題に取り組んでいると
『儂は恋愛の神! 自由に恋愛もできぬ可哀想なお主に”ゲーム世界の設定を書き変える力”と”外にいる人間をゲームの中に引きずり込む力”を与えちゃう! 』
『(えぇ…?)』
ギャグ漫画の世界からやってきたみたいなピンク髪のおじいちゃんが視界の隅に現れて、冗談みたいな力を授けられた。
困惑した。外の世界にはそんな神様がいるの?
と言うか、何その能力。世界を設定を書き換える? それを使えば『全てのキャラクターが自分で考えて行動できるように設定』とかできるの?
いや、できるわけがない。
大体そんなチートみたいな能力――
「——あるわけないじゃな、……い?」
ハッ、と唇に手を当てる。
無意識。でも間違いなく、心の声が漏れた。
プログラムに反して口が動いた!
「……あーあー! 私、黒百合ナギ! 泣く子も振り返るスーパー美人女子高生! 絶賛片思い中です! 下心で近づいてくる野郎どもはメリケンサックで前歯へし折っちゃうぞ☆」
確かめるように叫ぶ。
ついでに決めポーズもとってみる。ピース。
動く、動かせる。口も手も足も表情筋も、自由に動かせる!
すごい! 恋愛の神様って本当にいるんだ!
「ちょっとナギ何叫んでるの! ご近所迷惑よ!」
「あっ、ごめんお母さん!」
しまった。今が夜の10時過ぎだったことを忘れてた。
怒られて当然。これからは気を付けないと。
"ゲーム世界の設定を書き変える力"。先ずはこの力でどこまでのことができるのか検証しよう。時間はある、ゲームの世界は外の世界より時間の流れが圧倒的に速い。
次に彼がゲームを起動するまでに、この能力を使って舞台を整えておくんだ。
そして来たるべきその日。"外にいる人間をゲームの中に引きずり込む力"で、彼をグロリアス♡ラブの世界に招待する。
彼は誰にも渡さない。
彼は絶対に、私が攻略して見せる!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます