カラフルゴースト

/´ω`У´ω`\つっくばサーン♪

真昼と片口 1/3


どうやら新入生の中にゴーストがいるらしい。

この噂は三日経った頃には片口の知るところに広まっていた。


 すれ違う見知らぬ人の声、階下から聞こえてくる話し声、

そして食堂で朝食を食べていることの時も、知らない誰かがその噂を口にしている。


 噂とはそういうものなのだろう。一つ生じればそこから防ぐ術もなく拡散してしまう。それが事実であり、自然現象であり片口ではどうすることもできないことだ。

けれども、憤りを覚えずにはいられない。


 噂が広まってしまった原因は紛れもなく真昼自身にあるからだ。真昼がここに来なければ、それが生じることもなかったはずだ。


「片口?」


 自分を呼ぶ声に引っ張られる形で顔を上げる。

鬱屈した気持ちとは裏腹にこの日は文句の付けどころのない快晴だった。

食堂の窓から陽光が差し込まれると食堂内の薄暗さが解消され、

同時に生徒たちの快活な声が広がっていく。


 朝が始まったという実感が周りに共有されていく中で、

片口と彼を呼んだもう一人の生徒はその喧噪が届かない隅で、

ゆっくりと朝食の時間を過ごしていた。


「片口?」


 繰り返し自分の名を呼ばれる。

前とは違い少しからかうような波打った声音だった。

その声の主をまっすぐ見つめ片口は名前を呼び返す。


「聞こえています。徳先輩」

「なんだ。聞こえていたのか。食事をする手が止まっているぞ。食べないのか?」


 徳と呼ばれた生徒はわざとらしく動作を隠しもせず顔に手を当てる。

そして自分の朝食の残りを食べ始めた。

 徳に言われたとおり片口の朝食はほどんど手が付けられていない。

周りとの差が形になると、自分の頭からゴーストのことが離れられないのを見せつけられているようだった。


 空腹は感じている。時間が経つというのはそういうことだ。

だが自分が抱えている問題とは無関係に体は時を刻んでいる。

どこか不快でもあった。


「なぁ片口」

「なんですか?」


 すでに食事を終えつつある徳は、その口調とは裏腹に

片口がよく知る面持ちのまま語り始めた。

 入学してから片口が暮らしている寮は、基本的に部屋を二人の生徒で利用する。片口も例外ではなく彼にとってそのもう一人は目の前にいる先輩である。


 初めて出会った時から飄々とした空気を身にまとい続けている。

 気さくな人当たりが親しみやすい安定感を持つこともあるが、

片口にとってはつかみどころのないように思えて、彼とは距離を持ちつつあった。

 

 片口の態度については徳もうすうす感づいていたのだろう。

その彼の予感と共に、徳は鷹揚に語り始めた。


「この学校の生徒たちはみんな寮で暮らしている。

そして一般的には一部屋に二人が割り当てられ寮生活をしている。

新入生の同室については、三年生が割り当てられることがほどんどだ。いや確実といってもいい」

「それは知っています」

「ならなぜそういう風になっているのか。それは片口も知っているはずだ」


 片口は首を縦に動かすと、徳の代わりに答えを言うことにした。


「新入生の慣れない新生活。しかも親元を離れてのこれまで体験したことがないだろう生活。

それを経験のある三年生がサポートするためだと思っています」

「そういうこと。ここ最近の付き合いだけになるが、

片口は同居するにおいて心配をかける人ではないというのは分かっている。

物分かりのいい。そつのないやつだ」

「ありがとうございます」


 そつのないというのが誉め言葉かどうかが判断できないが、場に流れるままの返事をする。徳はそのようなところをそつのないと、評価しているのだろう。

 恐ろしく姿勢のいいままで、徳は静かに続けた。


「でもそれは良くも悪くもという意味が含まれている」


 徳の口調は少し諭すような、穏やかな年長さを目立たせるものに変わった。

 悪くもということが今言いたいのだろうというのは明白だった。

 片口がそこまで察しているのも徳は見通しているのだろう。


「まぁ俺がいいたいのは、誰かに話したいことがあるなら聞くぜ。

口は堅いほうだから」

「それを心配しているわけではないですが……」


 片口はしばし逡巡して、そして目の前の冷めた朝食に口をつける。


「今はやめておきます。どう話していいのか自分でもまとめられないので」

「そうかい。なら待つことにするよ」

「ありがとうございます」


 徳の気遣いに感謝しつつも、こういうときに一歩を踏み出せない自分を

不愉快に思ってしまうのが辛かった。

 こういうときにこの選択を選んでしまうのはいつからだっただろうか。

昔からこうではなかったはずだ。でもそのきっかけが思い出せなかった。


 片口が進学した学校は全寮制であり、男女ともにそれぞれの寮棟で

暮らしている。寮棟で暮らすにおいてある程度の秩序を保つための

規則はあるものの、それ以外では不満はない自由さが確保されている。


 その中で数少ない規則の中の一つとしては、食事の時間が挙げられる。

朝食と昼食と夕食については全生徒が食堂に集まって食事を行うことになっていた。

配膳や食事を用意する側の都合を考慮すればそれは当然だと片口は考えている。


「それでも食事が終わる後の混雑は何か考えたくなりますね」


 隣の徳は片口のつぶやきに破顔することで同意を示していた。


「俺たちみたいな学校とは違って、一般的な高校生は満員電車に乗ったりとか

するんだろ? それがない代わりにこういうところで不便を感じないとフェアじゃないだろう?」

「そういう考えもあるのですね」


 徳は片口の寮生活において同室の相手である。まだ彼との生活の中で分かっていないこともあるが、距離が近いということもあって分かっていることもある。

徳は何事もポジティブに受け入れるということだ。


 そういう彼の反応に相槌でも入れるべきだと思うのだが、

適切な言葉が思い浮かばなくて、ただ生徒が密集している出口を見つめるしかできなかった。


「それにしても数字では知っていましたけれど、

実際集まっているのを見るとたくさんの生徒がいると思っちゃいますね」


 数の多さに辟易していると、片口は何気ない感想がこぼれ出た。


「そうだな。全校生徒数はここ数年横ばいだから、

学校としてはこれからも続いていられるのだろう」

「寮の数という限度がありますからね。これ以上増えることはないでしょうね」


 出口に流れていく生徒の流れを他人事のように見ている。

彼らはどうしてここを選んだのだろう?

彼らのことは自分にとって些細なことだ。他人だからだ。


 でも彼女は? 不意に彼女の顔が頭の中に浮かぶと片口は頭を振って

それをかき消した。


「片口」


 声と共に気配がした。背中から伝わってくる気配は、自分の一部のように

知っているものだ。

 片口は聞こえないふりをすることにした。

生徒の隙間の間を縫って歩くように進んでいく。

 徳の戸惑ったような声に服をつかまれている感覚もあったが、

今は後ろを見ないで歩いていった。

 群衆を押しのけて食堂を出る。

いったん寮に戻って鞄と持ち、後は教室へと向かえばいい。

だが片口を呼ぶ声は消えることはない。


「片口。待ってよ!」


 儚い淡さを帯びた声に、緊迫した雰囲気が混じる。

 自分を呼ぶ声の間隔が狭まっていく。

もはや聞こえていないふりは通用していないだろう。周りの注目も徐々に集めている。

片口は自分の選択を今更ながら後悔していた。


「片口! きゃ」


 背後で倒れる音。微かなどよめきと同時に片口に向けられる刺さるような視線。

片口は大きく息を吸って、そして吐いた。こういう選択は間違いだったと認めざるを得ない。


 振りかえると彼の知っている生徒が地面に倒れている。

倒れている彼女と片口の目線が一致する。

彼女は片口の顔を見て何故かくしゃくしゃに笑っていた。


 

 彼女の息遣いに合わせてふわふわとした髪の毛が揺れている。

それに包まれるように存在している顔は小さいながらも

片口を引き付けるものを感じさせた。

 見知った顔であるはずなのに、彼女の縁の強い瞳は愛嬌を感じさせ、

それを支えるように頬紅がさっと頬を焦がしている。


 保護されたときの子犬のような雰囲気を身にまとっていて、

片口は彼女に近づくとそっと手を差し伸べた。


「手を見せてみろよ」

「うん」


 立ち上がり土汚れが付いたセーラー服のスカートをはたくと

その生徒は両手の手のひらを彼に見せた。

 両手は共に土で汚れた中に、濃い赤色が数本刻まれている。


「すりむいているじゃないか。どうして転んだんだ」

「セーラー服のサイズが合わなくて、動きづらいの」

「サイズを間違えたのか?」

「違うの。これから大きくなるかもしれないじゃない」


 片口の胸元ほどしかない体躯しか持たない彼女は片口を見上げながら懸命に抗議している。

 本人にとっては真剣なのだろうが、はたから見ると愛くるしいという正反対の印象を抱かせている。


「それなら落ち着いて振る舞えよ」

「片口が離れていっちゃうのが悪いのじゃない」

「悪かったよ。真昼の声が聞こえなかったから」

「嘘だよ。絶対聞こえていたでしょ?」


 真昼はますます抗議の姿勢を強めつつあった。

頬を膨らませている真昼は片口の記憶にある彼女の姿と一致していた。


「とにかく。手を見せてみろよ」

「いいよ。もう何ともないし。ほら」


 もう一度手のひらを見せる。真昼の両手はさっきまであったはずの

擦り傷や、汚れがまるで幻のようになくなっていた。

 片口の中で胸に重たいものが注がれたようだった。

理解していたはずだが、覚悟していたはずだがこの事実は未だ慣れることはない。


 嘘のように消えた真昼の傷は、真昼そのものが嘘の存在であることを

証明しているようだった。


 それは同時にもう一つの事実を示している。

 真昼はもう違うのだ。姿、動きは同じなのに真昼は片口の知る真昼ではないのだ。


「ゴーストならこうであるのは片口も分かっているでしょ?

怪我は消えちゃうし、病気もすぐになくなっちゃう。

私はもう死ぬことだって……」

「真昼。それは聞いていない」


 片口は自分でも驚くほどの抑圧された声が出てしまう。

 真昼ははっと目を見開く。それから片口の視線から避けるように顔をそらした。

 二人の間に流れる錆びた歯車のような歪さは最近よく感じているものだ。

どちらがそれを奏でているのかも判断ができず、言葉を探した結果

真昼は謝ることしかできなかった。


「ごめん」

「それでどうして僕を呼んだの?」

「それは姿が見えたから」

「それだけ?」

「それは……それだけよ。でもそれじゃいけないの?」


 真昼のまなざしが何を訴えているのかはわかる。

片口自身も自覚している。真昼ならそうするというのは

彼も分かっている。

 けれど……湧きあがる気持ちをため息にして吐き出すと

真昼の肩を抑えてゆっくりと告げる。


「もう高校生なんだから、そういうのはやめろよ」

「そういうのって何?」

「子供っぽいところ」


 真昼の返答を聞かずに、片口は肩から手を放した。このやりとりに懐かしさを覚えてしまった自分がいるのを気づいてしまった。


「真昼ちゃん」


真昼は何か言いたそうに口を開きかけたが、直後に彼女の背後から現れた一人の女生徒に呼び止められる。


 その女生徒と片口に挟まれる形になった真昼だったが

学校の予鈴が後押しとなり女生徒の元へと歩いていった。


 片口はその女生徒を初めて目にした。きっと片口に対する徳のような立場の生徒なのだろう。

 真昼が近寄ったのと同時に女生徒は片口を一瞥した。

激情を帯びた視線が鋭く前髪の隙間から走ると片口に突き刺さる。


 言葉よりも雄弁な視線に片口は気圧されると真昼と女生徒は

離れていった。


 予鈴は鳴りやみ生徒たちもまばらになっている。

静謐な空気が徐々に広がっていた。

 肩を叩かれたのでその方向を振り向くと、徳が徳のままの顔で迎えてくれていた。


「遠くから見えていたけれど彼女は?」

「真昼といいます。僕の幼馴染で、そして……噂になっているゴーストです」


 徳の深いうなずきがすべてを物語っていた。生徒の群衆の中に消えていく真昼の背中を、片口は見続けていた。見えなくなることを見ていたかったのだ。




 都内からやや離れた郊外の山岳部のふもとに位置しているこの学校は、

俗世から切り離されたような独自の世界を形成している。

 入学する生徒たちは寮生活を経てその世界の中に取り込まれる。

今までの自分の生活から一変したそれは、片口にとって望んでいたものだった。


 とはいえ全部が想像通りとなっているわけではない。

 閉鎖的だからこそ秩序が優先されるというのは先入観だったようだ。

 前印象とは反対に、過剰な規則で制限されているほどではない。思った以上に居心地が良いところだった。

しかし全てにおいて自由であるということでもない。


 ちょうどいいというのが片口が抱いた印象だった。

くっつきすぎることもなく離れすぎることもない。

絶妙な距離感を保った振る舞い続けることができる。


 よって印象から離れていたとしても、それは良い選択だったというのは間違いない。

この学校なら自分が望んでいた場所を作れるだろう。

 そう思っていたのだが、最大の誤算が真昼もここに進学したということだった。


「最初は驚きましたよ。いるはずないと思っていた知人が目の前にいたのですから」


 男子寮の自分の部屋でトランプを眺めながら、片口は独り言にも似た口調で話していた。夕食が終わり消灯前の時間はそれぞれの生徒たちが自由に使える時間でもある。

 眠りにつく静寂が待つ前の時間は、寮内のどの場所も余った力でうねりのような騒ぎを響かせていた。その片隅で片口と徳は二人でトランプをして暇をつぶしていた。

 トランプをする中で沈黙を追い払うように他愛のない話をしていた中、話題は自然と真昼のこと、そして今日の朝のことになっていく。


「徳先輩もそう思いませんか?」

「まぁ俺が片口の立場なら同じことを思うかもしれないな。進学先を教えていないはずなのに相手がいるというのは誰だってびっくりする」

「ですよね。真昼なら僕の進学先を知ることだって容易なのだとは思いますけれど、それを当日まで秘密にするというのもずるいですよね」

「ずるいか。そうだな」


 二人の間に捨てられていくトランプのペアを眺めながら片口は手元のカードを眺めていた。ジョーカーとハートのクイーン。ペアの片割れを眺めながら片口は話し続ける。


「でも、驚きの後に訪れたのは納得なのですよね。真昼が僕の近くにいるというのが正しい在り方かのように思えてしまって、そう思ってしまうのも複雑ではあるのですよ」

「ならいいのじゃないか?」

「いや、だめです。たとえそう思っていても、僕の隣に真昼がいることは許してはいけないのです」

「どうしてだ?」

「それは……」


 片口は話していいのか逡巡する。個人的な理由なら話さなくていいのだ。けれども個人的ということを思い浮かべたときに、抵抗があった。

 自分は真昼から離れたほうがいい。固く誓ったことだ。でもそれは個人的なことなのだ。

 だからどうしていいのかわからなくなった。結局返答としてはこうなってしまった。


「僕が決めたことですから」

「そうか。なら聞くのはやめておくよ」


 徳が片口の持つカードに手を伸ばす。ジョーカーを徳が引いていくと逆にうれしそうな顔をする。


「片口はゴーストのことどれくらい知っているの?」

「一般常識で知られていることなら知っています。人が死亡すると数日内に自然発生する存在。統計的な確率では死亡者の約一割程度の確率で現れる存在。ゴーストは生前と同じ姿を持ち、時間とともに成長もするが、いくつか人間とは違う点があるということ。風邪や怪我といったものに影響されないといったことですか?」


 今朝の転んだ時にできた傷跡が瞬時に消滅したときのことを思い出しながら、徳のカードを引くと、ジョーカーが姿を見せた。カードの裏から徳の声が聞こえてくる。


「一般的な認識はそういうことだな。あと上げられるものは……いやこれはいい、ちなみにゴーストのははるか昔から確認されているようで、日本でいうと平安時代には記録が存在していたともある。

 だが言い換えるとまだ知られていないこともある。どうしてゴーストが生まれるのかということなどだったりね」

「そうですね」

「適当な相槌だな」

「あまり興味はないので。徳先輩が言いたいのは何ですか?」

「そうだな。回りくどすぎたかもしれない。聞きたいことは真昼さんと話をするときに彼女にとって避けたい話題ってあるかということさ?」

「……」


 そういうことかと、片口は一人納得した。ゴーストがどうして発生するのかはいまだ科学的な解明はされていない。ただし一つだけ分かっていることがある。ゴーストは寿命による老衰などで死亡した場合発生することは確認されていない。


 つまり自然死以外の死を迎えた人間がゴーストになるのである。当然真昼も例外ではない。


 現代においてそれはデリケートな話題だ。この世界の人間はゴーストを前にするときはその話題を避けるのが一般的である。


 しかしそれを連想するものまで避けるのは、事前に知らなければ不可能に近い。そこまで推測しつつ、片口はあえて聞いた。


「なぜ徳先輩がそれを気にするのですか?」

「片口といると、真昼さんとも話をする時が来そうだからな。その時に避けておきたい話題は触れないでおく」

「なるほど。でもそれは杞憂だと思います」

「どうして?」

「一つは真昼はゴーストになった時のことを覚えていないからです」


 片口からジョーカーを引いた徳は、あっと驚くような顔をした。これはゴーストの真昼にとって独自の特徴になるだろう。


「いろいろと事情を聴いてみたのですが、真昼はゴーストになった時の前後数時間の記憶を完全に失っているようです。要はなんで死んだかは覚えていないのです。

 あいつは演技やうそをつくことができないのでそれは間違いありません」

「それは……悲しんでいいのか喜ぶことなのか分からないな」

「そうですか? 死んだときの記憶なんてないほうがいいと思いますよ。それは僕の価値観での話ですけれど」

「それで一つはといったからには二つ目もあるのか?」

「二つ目は……」


 徳の手元からカードを引く。そろったペアを徳に見せて不敵に笑いながら片口は立ち上がった。


「僕と真昼が一緒にいることはないからですよ。そろそろ消灯の時間だから寝ましょう?」

「負けたか。片口は強いな」

「先輩が弱いのですよ」


 自分の勝ちで話を終わらせる。

いつものようにベッドの中に入り、あたりを暗闇に閉ざす。暗闇と相対する。徳が居るはずなのに孤独感が重たくなってくる。


 それは闇だけではない。直前の徳の言葉が片口の脳裏によみがえってきた。


悲しんでいいのか喜ぶことなのか分からない。


 死んだときの記憶がないというのをどう受け止めていいのかわからない。自分が持っていたものを失ったことの哀しみと虚しさは、誰にも理解させないことだ。


 だがそうではないと片口は思っている。思い出さないほうがいいことだってあるだろう。そう思えるのは、それを思い出したときにどうなるか予想できるからだ。


 真昼が死んだときの瞬間を、片口は知っているから……。

彼女の死について片口が抱いているのは悲しみではない。

 絶え間ない後悔と自責である。それを感じなければいけない道理はあるはずだ。


 真昼を殺したのは片口だから。その思いがゆるぎない事実となって常に片口の中にうごめいている。


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