Nora ~愛と迪ォ縺ョ莠コ鬲壼ァォ~
ム月 北斗
1-1 名無しの猫と量子の猫
警告、警告。冷凍睡眠機内の温度が上昇しています。機内の人命の保護を優先し、冷凍睡眠状態を解除します―――解凍シーケンス準備工程を強制スキップ・・・解凍を開始します。
大きなゆりかごのような装置の底から勢いよく冷却ガスが抜けていく。辺りに散らばった紙片が、抜けるガスに巻き上げられて何処かへと飛んでいく。
ゆっくりと、強化アクリルで出来た装置の蓋が開いてゆく。抜け切れてなかったガスは中からも零れて消えてゆく。次第に装置の中身が姿を現しだす。
薄れたガスの中には、人の身体が見えてきた―――少女だ。先ほどまで凍っていたからなのか、薄手の服から出ている顔と腕と足は雪のように真っ白だ。心臓が動いているのか、胸元が静かに上下している。
ガスが抜ける音が次第に弱くなってゆく。それと同時に、眠っていた彼女の瞼が開きだす。まだ眠気が覚め切っていないのか、うっすらと瞼を開いたまま呼吸を整える。朧げな意識がハッキリとしだした彼女は、装置のふちに手を突いて体をゆっくり起こす。
彼女の眼前には大量の家電製品が捨てられて出来た山があった―――いわゆるジャンクヤードだ。そんな光景が彼女の目に映るその前、その景色を縁取るように大きく吹き飛んだ壁の残骸が残っていた。一体ここで何があったのか、それを彼女は知らない。
装置のふちに寄り掛かるように、彼女は足元を見ながら慎重に地面へと降りた。起きたばかりのその足にうまく力が入らずに、彼女はぺたりと地面に座るように崩れた。四つん這いになって彼女は壁の方へと這ってゆく。壁の向こうへ行きたい彼女、幸いにも彼女が四つん這いでも乗り越えられる程度の段差しか壁には残されていなかった。壁の向こう、ゴミで出来た地面の上に差し掛かったあたりで彼女の足に力が戻ってきた、ゆっくりと、転ばないように彼女は立ち上がり空を見上げた。
真っ暗な空、点々と星々が輝くだけののっぺりとした黒いキャンパスのような空、そんな中で自信の存在を主張するように白く輝く月が浮かんでいた。そんな月に興味を持ったのか、彼女は月に向かって手を伸ばす、彼女の腕も月と同じくらい白い。外気の寒さに吐く息も白い。月を見上げながら彼女は小さな声で言った。
「ネコ?」
もしも彼女のそばに誰かがいたのなら、その言葉を聞いたら不思議に思うのだろう。しかし、今の彼女にとってはそれが正解なのだ。
月を見上げる彼女のそばに、小さな光の集合体が近寄ってゆく。その存在に気付いたのか、足元に近寄ってきたそれに彼女は言う。
「ネコ?」
そう聞かれたそれは彼女の足から頭まで登りぐるっと周ってまた彼女の足元に集まりだす。すると徐々に形を持ち出した―――彼女の言う『ネコ』の姿に。
形を得たそれは彼女に背を向けて何処かへと去ってしまった。
再び一人になってしまった彼女は、もう一度月を見上げた。吹き付ける風の冷たさに寒さを感じたのか、自分の眠っていた装置に敷かれているシーツに身を包む。シーツに包まれると彼女は安心したのか再び眠りについた。
夢の中で先ほど見た光の集合体が現れた、先ほどよりもたくさんの数がいた。彼女の周りにふわふわと浮かんでいる。
孤独なジャンクヤードの中、彼女の心には孤独感というものは無かった。
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