土曜日の牧田先生

わたしは最近、アレに悩まされている。


やっぱり毎日しているマスクのせいかな。

もともと肌荒れしやすい体質なので、敏感肌用の化粧水を使ったり、帰宅したら即行で化粧を落とすようにしたり。

自分では気を遣っているつもりだったけどな。

しょんぼり。

肌が荒れていると本当に憂鬱。

マスクのおかげで肌荒れは隠せるのだけど、マスクのせいで一向に治らない。


そんなこんなで皮膚科に通い始めた。

治療し始めてからだいぶ経ったのに、なかなか完全には消えない。

女の子の日のあたりは皮脂の分泌が増えて新しいニキビができる、の繰り返し。

一歩進んで二歩下がる状態。


平日は仕事なので、唯一通えるのは土曜日の午前中。

わたしと同じような人で集中するのだろう、クリニックはいつも混んでいる。

診察は午前で終わりのはずだけれど、今日の診察も13時近くなりそうだ。

朝食べないで来ちゃったからお腹減ったなあ。


「89番の方、中へお入りください。」


きたー!

牧田先生のイケボ!


「失礼します。」


パソコンの画面を見ながらキーボードを打つ長い指とその横顔。

セクシーすぎる。

たぶん私の予想では、40歳前後。

渋い。そしてエロい。


「その後調子はどうですか?」

「相変わらず出来ては治っての繰り返しですね。」

「ちょっとマスク外して、見せて?」


このところ外でマスクを外すことなんてないから。

なんだか恥ずかしい。そしてエロい。


「飲み薬は必要なさそうですね。塗り薬はまだある?」

「もうなくなりそうなので、いただきたいです。」


敬語とタメ口が入り乱れてるのも良い。

キュンです!


「わかりました。じゃあ2本ずつ出しておきますね。」

「ありがとうございます。」


ぐぅ。きゅるる。


タイミングよ…。私のお腹。


画面に文字を打ち込みながら、牧田先生がマスクの下でふっと笑う。


「もうお昼だもんね。俺もお腹空いてきたな。」


一人称、俺って!

かっこいい!そしてエロい!


「ここから一番近い薬局わかる?その隣に定食屋さんあるんだけど。」

「はい。行ったことはないですけど。」

「あそこのカレー、うまいよ。」

「へぇ。今度行ってみます。」

「俺の同級生がやってる店なんだ。カレー推してんのにあんまり売れないって言ってたから、気が向いたら食べてやって。」

「はい。絶対にカレー頼みます。」

「喜ぶよ、きっと。じゃあ、また何かあったら来てください。」

「ありがとうございます。」

「お大事に。」


いつもツーラリーくらいの会話なのに。

え、わたしと先生が世間話?

こんな急にイベントがあると心臓もたないんだが。

わたしはただモブとして拝みたいだけで。

むしろ、物足りない事務的な会話が欲求不満にさせて、悶々とするのもまた良き、と思ってたけど。

こんなに刺激的な世界が広がっていたなんて。

会計が終わってクリニックを出るまで、動悸が治らなかった。


薬局で求心買お。



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