第21話 酔っ払いのしでかし

今のは何だったんだろう。私はまだぼんやりする頭を振って、冷蔵庫から冷えたミネラルウォーターを取り出すと一気に飲んだ。口の端から馬鹿みたいに水が溢れて、私はセットアップのワンピースの胸元のシミを指で撫でた。


指を無意識に動かしながら、私はさっきの出来事を思い返していた。駅で腕を掴まれて、知らないうちにタクシーに乗せられたのはその通りだ。思いの外酔ってた私は、ぐっすり眠ってしまったようだ。



気づいたら家の中にあいつがいて、何か小言を言いながらジャケットを脱がせてた。それで何で抱きしめられていたんだろ。鍵閉めて寝ろっていわれた?


私は慌てて部屋の鍵を掛けて、玄関に散らかったヒールを見つめた。結局、酔っ払った私の面倒を見てくれたっぽい?あんな顔して、世話焼きなのか。私のこと美那って呼んでた?私はもうこれ以上考えるのが限界になって、サッとシャワーを浴びるとベッドの住人となった。



翌朝、鈍く痛む頭を揉みながら、私は昨日の夜の事を考えていた。橘征一にお世話になったのは事実っぽい。頼んでないけど。最近のストレスで飲み過ぎたのは本当だ。そのストレスは全部橘絡みだからお世話してもらうのも当然かもね。なんて、太々しく生きられたら随分楽なのに。



「ありゃ、顔色悪いわね…。」


翼にまで指摘されてしまった。今日何人目だろうか。



「昨日、後から酔いが回っちゃって。私、結構酔ってたみたい?」


もしかしてお店でも醜態を晒したのだろうかと不安を感じた私に、翼は首を振ってそんなに酔った様には見えなかったと言った。私はみんなと別れた後の橘とのあれこれを、何となく話す気になれなくて、黙り込んだ。


「あ、野村さんには連絡SNSで教えておいたから、ちゃんと返事してあげてね。結構相性いいと思うけどね。まぁ、気楽な気持ちで取り敢えず二人で会ってみたらいいんじゃない?」



翼のアドバイスに私は頷いて、野村さんの事を思い浮かべた。確かに優しくて大らかで、一緒に居たら癒されそうだった。あの傲慢な訳の分からない事ばかりする男と違って。


その日は何だか鬱々とした気分で過ごしたけれど、終業時間が近づくにつれて、益々気が滅入ってきた。今日はお見舞いに行くって橘弟に言ってしまっていたから、今更行かないとも言えない…。病人に冷たくするのは、私には難しいんだ。

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