第18話 天敵に捕まる

結局私たちは、楽しい時を過ごして店を出た。楽しくていつもより飲んでしまったみたいだ。今回の食事会のメンバーは、いつに無く好感の持てる男性達ばかりで、翼は私にウインクして言った。


「ねぇ、良かったでしょ?参加して。特に野村さんとか。」


私は、前を歩く集団の中の、野村さんの後ろ姿を見て言った。


「‥そうね。確かに素敵な人ね。明るくて、優しい。」


翼は私を覗き込んで言った。


「じゃあ、連絡先教えておくから。良いわね?」



私は肩をすくめて頷いた。私も、もっと男性と出掛けたり、付き合ったりする必要があるのはよく分かっていた。そんな私を翼が密かに心配してるってことも。そんな事を考えていたら、野村さんが振り返って近寄ってきた。


「あの、田辺さんにまた連絡しても良いかな。…俺にもう一度会うチャンスをくれないかな。」


私は野村さんの眼差しがひどく真剣に思えて、ぼんやりしながら頷いた。


「…ええ。連絡してください。」


野村さんは嬉しそうに笑顔になると、足取りも軽く仲間のところへ戻っていった。さっきまで居なかった翼が、いつの間にか戻ってきて私にニヤついた顔を見せた。私は罰が悪くなって、用があるからと皆と別れて駅へ向かった。



一人になって、明日にでも野村さんから連絡が来るのかもと考えていると、突然腕を掴まれた。私がぎょっとしてその腕を掴んだ人物を見上げると、私の天敵だった。すっかり忘れていたけれど、そう言えばあの店でハーレム生活してたっけ。私は少し酔った頭でそんな事を考えて、思わず笑ってしまった。


「こんばんは。ハーレムのご主人様。」


橘征一は眉を顰めて言った。


「え?…なんて言ったんだ?ハーレム?」


私は橘の手を振り払って言った。


「さようなら。もうお会いしません。」


歩き出した私についてきた橘は、少し戸惑った様子で私に言った。



「…酔っ払ってるのか?…今から病院へ行くんだが、君も行くかい?…いや、昨日も来てくれたんだ。今日は行かなくてもいい。タクシーで送ってくよ。弟のところに行ってくれたお礼だ。」


私は立ち止まって、橘征一を見上げると眉をしかめて言った。


「ねぇ、あなたってストーカー?…それとも私のキスが忘れられないの?」


私は自分の口から飛び出した言葉に、ますます笑えてきてクスクスと笑った。ああ、結構酔ってるかもしれない。笑ってる私を唖然として見つめていた天敵は、小さな声で何か言ってたけれど、私には聞こえなかった。



「…ああ。多分そうなんだ…。」



   

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る