第8話 橘征一side悪魔の尻尾
ほんと、マジでムカつく男だ。私は美味しいと有名なテイクアウトのコーヒーを受け取りながら揶揄いにはスルーして言った。
「尚弥さんはぐっすり眠ってます。もう、私は帰っても良いですよね?」
橘は私をホールのちょっとしたカフェスペースへ連れ出すと椅子を引いて座らせた。
「ああ、良いよと言いたいところだが…。さっきの様子では、きっと君が居なくなったら大騒ぎしそうだ。多分潜在意識で君の従姉妹と別れたショックが残ってるんだと思う。
出来ればあと何度か見舞いに来てやってくれないか?その間に、記憶もハッキリしてきて尚弥も落ち着くだろうから。さっきみたいに安心して眠らせてあげたいんだ。どうだろうか?」
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私は病院から送ってきた美那の、マンションの近くに停めた車に乗り込みながら、彼女に出会った時のことをなぞる様に思い出していた。
このトラブルの元凶になった女に会うために、イライラしながらマンションのチャイムを鳴らした。インターホンで応答する間も無く、ドアを開けたのは随分とあでやかな印象の女だった。この派手な女が弟の尚弥を入院へ送り込むキッカケを作ったのかと、苦々しい思いが湧き上がってきた。
目の前のミナは弟を虜にするほど、妙に惹かれるものがあったが、それを感じた自分が馬鹿みたいに思えて、思わず憎まれ口を叩いてしまった。するといきなり怒り出したミナは、私の想像していた悪い女そのものに思えて、妙な満足感を覚えた。
ミナは知らぬ存じぬ、果てはミナだけどミナではないとシラまで切り出す始末だった。取り付く島もない様子に苛立った私はふと、ミナが扇状的な格好をしている事に気づいた。
胸元は立派な谷間がこれ見よがしに見えていたし、スカートは腿の上の方の短いものだ。肩は細い紐状であっという間に脱げて、いや脱がす事が出来そうなSMの女王様が着るような革のような素材のドレスだった。しかも背中にはコウモリのような翼がついてる。
これはコスプレというやつか?目線を下げると悪魔の尻尾まで生えてる。私は思わずその可愛い尻尾を掴んで引っ張ってしまった。
女は尻尾が千切れると慌てながら、私に急接近して見上げてきた。私はこの女の甘い香りと、思いの外真っ直ぐな眼差しに囚われて、キスしたくて堪らなくなった。
これがこの女のやり方なのかもしれない、この手に弟は引っ掛かったのだと、八つ当たりに近い気持ちになって、気がつけば目の前の悪魔にキスしていた。
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