鼻糞伝説
VAN
第1話
それはほんの一瞬、日常に紛れた悲劇だった。
小指を鼻の穴に入れると俺はその小指をほじくり回した。指に質量を感じると小指を抜き、その物体を見る。
「上出来だ」
そして俺は死んだ。
気が付くとそこは真っ暗な空間だった。そんな中、一人の女性がそこにいた。女性はその美しい金髪をなびかせ、後姿を俺に見せている。
「あなたは誰です?そしてここはどこです?俺はハナクソをほじってたはず・・・」
すると女性は振り返った。ローブを着た美女はまさに国宝級といってもいいだろう。俺はうっかり鼻の下を伸ばしてしまった。
『私はハナクソの女神、『ノース』。貴様は死んだのだ。鼻ほじって死んだのだ。』
「え?」
俺はしばらく動揺を隠せなかった。まず、俺はハナクソをほじって死んでしまっていたことにショックを受ける。というか信じたくない。
「それはほんとですか?ドッキリとかじゃなくて?」
『ああ、もちのろんだ。私もびっくりだ。ハナクソの女神の仕事は大体ハナクソの処理が基本だが、ハナクソに関する死者の管理もあったとはな。この1万年、私のキャリアで初めての仕事だ。』
「え?じゃあ、ほんとにハナクソほじって死んだの?てか鼻ほじるって死ぬ要素ないだろ。」
『私も知らん。貴様がここに来たということはとりあえずハナクソが関わって死んだってことには変わりはない。』
「ええ・・・」
困惑を隠せない。というかいまいち府に落ちない。普通ハナクソほじって死ぬだろうか。でも、手洗ってなかったり、結構激しくほじったりとかでいろいろ心当たりがあるが・・・。
もしそれで死んだのならダサすぎるだろぉぉぉぉぉぉぉ!残された遺族がかわいそうじゃないか!
「じゃあ、俺が死んだ後、どうなったんですか?ハナクソ女神。」
『ハナクソ女神じゃない、ハナクソの女神だ!・・・えっと、貴様は・・・』
『葬式すらされず、身内だけでこっそり焼かれてるな。』
なんだこの気持ち。安心したような恥をかいたようなこの気持ち。非常にむず痒い。
「まぁいいや。で俺はどうなるんですか?ハナクソ女神。」
『だからハナクソの女神だちゅの!ハナクソと女神を分けろ!このボケェ!』
ハナクソ女神なだけあって言葉遣いも汚い。ていうか、ハナクソの女神なのにハナクソに対して嫌悪感抱いてるじゃん。自分の職に1万年も不満持ってんじゃん。
『まぁいいでしょう。』
いいんかい
『あなたには二つの道があります。一つはもう一度この世界で別の人間として生まれ変わるか。もう一つは生き返るための試練を受けるか。』
「生き返れるのですか?そんなことができるのですか?」
『ええ、可能よ。なんせ私は女神ですから。』
「ハナクソのな。」
『それ以上侮辱するとハナクソに転生させますよ。』
「ごめんなさい。で試練ってなんでしょうか?」
いろいろとハナクソ女神をコケにしたところでようやく話が進んだ。
『あなたには、地球とは違う異世界へ行き、その世界を支配しようと企む大魔王の討伐の試練を与えます。』
ようやく、異世界転生らしきものになった。いやこれは、異世界転移か。ハナクソで死んでしまった俺にようやくツキが回ってきた。
「まさか、チート級の能力も俺に?」
『ええ。もちろん。貴様にはハナクソの女神の加護を授けよう。きっとお役に立てるだろう。』
「ハナクソの女神の加護?なんだそりゃ。なんか信用にかけるな。」
そうするとハナクソ女神はいきなり、その美しい顔面でハナクソをほじくった。
「え、なにしてるの?」
ハナクソ女神が鼻から取り出したクソは以外にも普通サイズで俺も見たことのある一般的なハナクソだった。だけど他人のハナクソを改めてみると汚い。個人的にモザイクをかけたい。
『これがハナクソの女神の加護だ。受け取れ。』
するとハナクソ女神はそのハナクソを指ではじいた。そのハナクソは驚くべきスピードで・・・
俺の鼻目掛けて飛んできた!
「うぉええええええ!」
鼻に強い衝撃と違和感を感じた。それと他人のハナクソが自分の鼻に移植されたことを考えてしまい、俺は吐き気を催した。
ハナクソは鼻にこびりつき、鼻でフン!フン!とやっても取れない。最悪だ。
『では、行け!早く行け!もう行ってしまえ!』
涙目のハナクソ女神は俺の足元に大きな穴をあけた。そしてそれに吸い込まれるように俺は落ちていった。
俺はこうして強引ながらハナクソ女神に異世界へと転移することとなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます