感情・感想を言語化する(ノーマル&インサイド)
「聞いてよ、聞いてよ、最近本人が全然話聞いてくれないんだよ」
「なになに?」
「朝起きてから朝食食べるまでさ、眠たいとか怖いとかあれが不安でさー、それ言うんだけどさ、全然聞いてくれないんだよ」
「確かになあ、聞いてくれないなあ。まあ諦めてるけどな」
「なんか音楽はかかってるんだけどねえ。その音楽のせいで聞こえないのかな」
「聞きたくねえんだろ俺たちの言葉なんてさ。朝から女の○○○の話とか、アイツカスなのにみんなに受け入れられて許せない、〇んだらいいのにとか聞きたくないだろ」
「でも自分の言葉じゃん。なんで自分の人生なのに自分の言葉無視するの?」
「知らねえよめんどくせーな。ああもうこの会話もめんどくさい。あーあー」
ちょうどインサイドヘッドという映画の続編が公開ということでほんと合わせてきたんじゃないかというほどタイムリーな話。いや本当に。
「これおいしい。あーこれもおいしい。ああこれもおいしいなー」
「どれがどうおいしいんだよ!わかんねえよ」
「おいしいんだもの。それ以上ないよ」
「でも同じものでも店とかメーカーによって味違うだろ」
「え、全部美味しいものとして食べてる。とくに違いは……?あれ、あるのかな」
省エネで生きすぎて世界をコード化している。が故に。
「どういうきっかけで? どういう仕事をしたいですか?」
「○○ですね」
「もっと具体的に教えていただけますか?」
「……」
「○○さんは意見ありますか?」
「えーと、うーん、(ないな……)なんか、こうセミナーを開いて……みたいな感じですかね。」
「? セミナーを開いて、どうするんですか?」
「具体的に……、具体的に……。うう」
今までやってこなかったツケが回ってきた。創作者であるくせに「ことば」が無いとは。「ことば」が無ければ説明もできない。当たり前のこと。人よりも感情の振れ幅は強く、他人の感情も自分に流れ込んでくる。しんどくなってくる。細かな違いを気にしていられない。全部簡単な単語に集約する、「しんどい」「めんどい」「つらい」「悲しい」。徹底的抽象化。そしてそれを見ないようにする、かき消す、一つの防衛策。が故に。自分を見失う。自分がどうして嬉しくなるのか、どうしてしんどくなっているのかわからなくなっている。なんで自分がこんなにも簡単に落ち込むのか、なんで頑張れないんだ?なんで毎朝ごはん食べるの遅いんだよ、どうすればいい、どうすれば治る?どうすれば元気に――
今までエッセイで取り上げたことの根底には彼らを無視していたというところがある。やらなければならないことがあったし、親に合わせないといけなかった。しかし、今その防衛策は返って自分を苦しめることになっているのである。現に就活に響きました。
でも大丈夫。自分の「ことば」を取り戻せばいい。「ことば」にする能力が決してないわけではないから。
そしたら大変不思議なもので「ことば」がどんどん出てくる。しかも見える世界も変わっていく。
「メロンソーダフロント味~。おいしい」
「どうおいしいの?」
「うーん。甘くて……。? これ本当にメロンかな?」
「おおよく見抜いたな、原材料をよく読むとメロン果汁は一切入ってない」
「確かに正直そこまでおいしいわけじゃないかも。中の下くらいかな」
「ラーメン、こってり、おいしい……」
「……ドロドロしません?なんか正直しんどい。つっかえるからかな」
「あっさりしてる方がいいよね」
目の前に出された飯=おいしいものとして受け取るというコードが複雑化していく。
「この小説、はあ……。うーん。……?」
「いや世間とは真逆の概念を適用しているところがまず衝撃だよね。最初はよくあることなんだけど、そこからここまで広げていくのか。いやそうかな?って感じはするけど、もうその概念で世界が成立してるというか完成されてるというか。いやこういうの書けるのすごいわ。面白いわ」
作品を鑑賞する術も備わっていく。書き手が楽しいところとか、感動するところとかをわかりやすくセッティングせず、読み手に作品から何か感じ取る作業を完全に委ねる純文学寄りの作品の面白さが見えてくる。勝手に面白いとこ見つけていいのかもしれない。
今まで閉ざされていたエリアが解放され、晴れやかな心地。より世界が鮮明にうつる感じ、キラキラした感じ。自分が何をどう思っているのか掴める。理解できないと思っていたものも、自分なりの解釈で定義できる。それでいい。世界を掴むことができたのなら動かすこともできるだろう。今まで動かすことができなかった世界を新たに培った「ことば」で動かせたなら、そこに待っている未来はきっと繊細で美しい。
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