本当にやりたいことなのか?
『せっかくここまで来たんだからどこか行こうよ』
試験が終わり、暑い夏の空気に投げ出された僕は生い茂るビル群を見上げこう思った。でも忙しい毎日、日曜日の体は相当疲れていた。なんかボーっとしている。
『博物館でも行く?』
『いや、疲れてるからな……。ずっと立っているのはな……』
『じゃあ座ってたらいいよね、乗ったことのない地下鉄にでも乗る?』
『まあ乗ってみるか』
地下鉄は短いホームのわりには人が次々とやってきて列を成していく。時刻表を見ると「本日はイベントのため増便します」という張り紙がされていた。
地下鉄に乗り込む。駅を進むたび次々と高校生から大学生くらいの人が乗ってくる。フリフリとおしゃれしている女子。笑みを浮かべて友達と話す男子。人に挟まれて緊張した面持ちの女子。だがみんな同じタオルを持っていた。
『あ、イベントの客だ』
もう遅かった。電車はもう満員、降りる駅にも降りれず、僕はキラキラした人に挟まれ緊張したままやり過ごし、終着駅で降りることとなった。
そこにもイベントに向かう人たちがいた。イベントのポスターを撮っているようだ。首にはあのタオル。駅を出ると大きなモニュメント。家族連れが仲よく写真を撮っていた。子供たちがモニュメントを挟んでポーズ。自分もボーっとそれを見た後にチーズ。正直全く興味がなかったので『でかいな』以外何も感じなかった。
『何やってるんだろう』
予定のない終着駅の街。他にすることもない。僕は数分後にはもう駅のホームにいた。目の前を快速が通過していった。
『なんか悲しいです。楽しくない……』
『ここまで来るなら博物館行けた……』
『もう疲れた、帰ろうよ』
帰りにミ〇ドを買った。あの瞬間があの日のハイライトだった。僕は確かに日曜の昼下がりに「楽しい」が詰まった街にいたし、周りの人みたいにあの街で楽しく過ごす時間はあった。でも体も心も疲れていたし、本当は帰ってゴロゴロしたかったんだ。別によくないことをしたわけではないんだけど、結局周りにいる幸せな人を見ているだけで自分が本当にやりたいと思ってること、心の声を聞けてなかったのかもしれない。「せっかく」だから楽しもうとしても返って疲れてしまうこともあるのかもしれない。世間的な幸せと、自分の幸せは違うかもしれない。まだよくわかってないから今度もしそういう事があるなら自分に問いかけてみたい。『本当に今やりたいことなのか?』と。
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