第八話 ベッケンハイム帝国訪問
父上さまの戴冠式から五カ月が過ぎた頃、ベッケンハイム帝国よりあと一カ月ほどで神殿が完成するとの知らせが届きました。私たちはその
そして式の二日前に私と父上さま、ウラミス兄上さまがダロワ殿とグノワ殿の背に乗って帝国を訪れました。もちろん私たちの姿は、結界によって帝国民の目に触れることはありません。
ただし先触れで、この日に訪問することは伝えてありましたので、神殿の敷地は立ち入り禁止とされておりました。ダロワ殿たちが舞い降りるからです。
ちなみに母上さまとノウル兄上さま、スコット兄上さまはお城でお留守番となりました。皇族全員が国を離れるわけにはいきませんからね。
「コートワール帝国からのお客人とお見受け致します。私はアントデビス皇帝陛下より皆様のご案内を仰せつかりました、軍務大臣のオーエン・ベル・ロンスールと申します」
「うむ。出迎え大儀。
結界が解かれて私たちが姿を現すと、それに気づいたオーエン殿が近寄ってこられました。
その後を追って二十名ほどの帝国騎士たちも駆け寄り、私たちを取り囲みます。物々しい警備体制ですわね。
「そちらの方は……?」
「護衛の騎士ですわ」
父上さまに続いて兄上さまと私が名乗ると、オーエン殿は後ろの男性に
実は帝国に着く直前になって、ダロワ殿も私たちに同行すると言われたのです。突然でしたので驚きましたが、それならばと革ベルトに帯剣した騎士服姿になって頂きました。
もちろん、父上さまたちには結界が解かれる前にご説明してあります。
「左様で。伺っておりませんでしたので、失礼致しました」
「構わぬ。彼も我々と同行する」
「かしこまりました。どうぞあちらへ」
指し示された方の騎士たちが一歩下がって道を空けると、そのすぐ先に
オーエン殿はまさか護衛騎士であるダロワ殿が、馬車に同乗するとは思っていなかったようです。普通に考えればそうなりますわよね。乗ってしまっては外敵に対応出来ませんもの。
それを見た帝国騎士たちも苦笑いを浮かべております。彼の正体を知ったら、その顔が恐怖に歪むことになりますのに。
そんな私たちは馬車に揺られること約一時間で、ベッケンハイム帝国城に到着しました。ずい分と近い場所に神殿を建てられましたのね。
「アントデビス皇帝陛下はすぐにお会いになられます。つきましては騎士殿はこの場にて待機頂きますよう」
お城の客間に通された私たちでしたが、オーエン殿は部屋に入るなりダロワ殿を
「ナラン。我ハ護衛トシテツイテイク」
「一介の騎士風情が、許しもなく陛下の御前に出ることは出来ませんぞ!」
「我ヲ騎士風情ト申スカ」
「ダロワ殿、どうかお鎮まり下さい。そしてオーエン殿」
「なんでしょう、シャネリア殿下」
「我が国の騎士を貶める発言は看過できません。訂正なさい」
「これは異なことを。仮にも私は帝国の軍務大臣ですぞ。その私から見れば、他国の者であっても騎士は騎士。何も間違ってはいないと思うのですが?」
「彼がアントデビス陛下により招かれた黒竜だとしてもですか?」
ダロワ殿の正体を明かす相手は限られた者とする予定です。そしてこの部屋には現在、私たち以外にはオーエン殿しかおりません。彼は軍務大臣ですから、今後を考えれば正しく認識して頂く必要があるでしょう。
「なにをバカなことを。聞けば黒竜とは体長百メートルほどもあるとか。その騎士が黒竜であるはずがないではありませんか」
「ナラバ我ヲ剣デ突イテミヨ」
「は?」
ダロワ殿はそう言うとチュニックの裾をまくり上げ、引き締まった腹部をさらけ出されました。
「鎧ハ着テオラヌゾ」
「いや、しかし……」
「オーエン殿、遠慮はいりませんわよ」
「余も許す。試してみるがよい」
「ライオネル陛下まで……正気ですか!?」
「父上はやれと申された。これは命令だぞ、オーエン!」
あらあら、兄上さまは相当ご立腹のようですわね。
「彼が黒竜でないならこの場で絶命するでしょう。ですがもしそうなっても、貴方を責めることはございません」
「だが黒竜であったなら、
「う……」
「そして先ほど其方は我が娘シャネリアをバカと申したであろう?」
「はい?」
「確かに貴様はバカなことを、と言ったぞ!」
ウラミス兄上さまはそれをお怒りでしたか。
「わ、分かりました。私が間違っておりました。どうかお許し下さい。ライオネル陛下、ウラミス殿下」
「謝る相手が違うのではありませんこと? それとも私たちはこのまま帰った方がよろしいかしら?」
「お、お待ちを! そんなことになれば私の首が……!」
「ではダロワ殿に頭をお下げなさい! ヘイムズオルド帝国から赤竜飛来の折に、貴方たち帝国民を護って下さるのは彼なのですよ!」
「も、申し訳ありませんでした!」
「フン! 下ラヌ。貴様ノ命ガアルノハ、シャネリアガ殺スナト申シタカラダ。感謝スルノダナ」
ダロワ殿は不機嫌そうに言うと、
つまり剣は折れることなく、縦方向にぺしゃんこにされてしまったというわけです。オーエン殿の顔から一瞬にして血の気が失せておりました。
私たちももちろん驚きましたけど。
その後、ガタガタと震える彼に先頭されて、私たちは謁見の間に向かうのでした。
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