第六話 領主邸完成

 前回のお茶会から約一カ月後、領主邸は無事に竣工式を終え、最終確認も済んで引き渡しの日を迎えました。父上さまたちは一通り内見し、先ほどお城に帰られたところです。


 建物は四階建てで、最上階には私を除く皇族が滞在する時に利用するお部屋と、文官など位のある使用人の寝室が用意されておりました。


 もちろん区画が区切られておりますので、たとえ文官といえども不用意に皇族と鉢合わせするようなことはありません。


 私とダロワ殿、それに専属メイドであるカーラのお部屋と執務室は三階にあります。


 二階は客間と医務室、文官の仕事部屋など。

 一階は大ホールと応接室、一部の使用人の寝室、食堂、浴場となっております。


 ただし三階と四階のお部屋には全て内風呂がありますので、一階の浴場は来客と使用人たち用となりますわね。


 地下には牢と一般使用人用の寝室がありますが、これらは壁で隔てられているため、互いに行き来することは出来ません。当然入り口も離れております。


 また、一般の使用人は邸への出入り口が建物の裏手に設けられているので、メイドなど一部の者を除いて私と顔を合わせる機会はほとんどありません。


 少々寂しく思いますが、身分差があり過ぎるので、彼らにとってはその方が楽なのかも知れませんね。


「まあ! とても素敵なお邸ですこと!」

「ありがとう存じますわ」


「「「シャネリア皇女殿下、おめでとうございます!」」」


 お祝いの言葉を下さったのはいつものお茶会のメンバー、オリビア、ハミルトンさん、ケイトさんの三人です。


 そして彼女たちは、この邸に文官として住み込みで働いて下さることになっておりました。私が一人では寂しいと言ったら、父上さまがご提案下さったのです。


 皇帝として命令するのではなく、あくまで彼女たちが希望したら許可するとのていでしたが、もちろん三人とも二つ返事で応じて下さいました。


「もう、また皆さんは……」


「うふふ、よいではありませんかネリィ。お祝いの言葉くらいはちゃんと言いたかっただけですよ」

「そうです、シャネリア様。それに今後はいつもご一緒させて頂けると思うと嬉しくて嬉しくて!」

「私もケイト様と同じです! このお話が決まった時から、もうワクワクが止まりませんでした!」


「ところでネリィ、あのお話は本当ですか?」

「あのお話とは?」


「ノウル殿下とスコット殿下が、月毎に交代でここに詰められるという話ですよ」


「ああ、それでしたら本当ですわよ。実はウラミス兄上さまも加わりたかったようですが、さすがに皇太子が一月もお城を留守にするのは父上さまがお許しになりませんでした」


 それでもウラミス兄上さまは、毎週末の滞在を勝ち取られましたけど。


 臣下たちは、皇太子がそんなにしょっちゅう出歩いて身の危険はないのかと心配していたようですが、黒竜に乗っていくので問題ないと言いくるめたそうです。他に護衛のワイバーン騎兵も同行してきます。


 ちなみに兄上さまを送迎してくれるのは幼竜のグノワです。さすがに馬車で半日ほどの距離ですから、一万メートル上空まで上昇することはありません。その代わり激しい雷雨の際には送迎もないので、ウラミス兄上さまは馬車でおいでになることとなります。


 もっともそれも、現在建築中の新帝国城が完成するまでの間でしょう。


「ねえねえ、ケイトさん、ハミルトンさん」

「「はい?」」


「お二人はノウル殿下とスコット殿下のどちら狙いですか?」

「リ、リビィ?」


「どちらも素敵ですけど、私はノウル殿下ですね」


「よかった。私はスコット殿下がいいので、ケイト様とは被りませんね」

「でもハミルトンさん、私とは被ってますよ」


「オリビアさんもスコット殿下ですか!?」

「ちょ、ちょっと皆さん! リビィまで……」


 三人がノウル兄上さまとスコット兄上さまを取り合いですって?

 ウラミス兄上さまは、次期皇帝となられるお方なので恐れ多すぎるのだとか。


「「「で、も!」」」

「は、はい?」


「両殿下とも、ネリィしか見てなさそうですからねぇ……」

「「ええ……」」


「そんなこと……」


 大いにありますわね。二人の兄上さま、いえ、ウラミス兄上さまも含めた三人とも浮いたお話が一つもありませんもの。


 もちろん縁談はいくつも寄せられておりますが、今のところどこの令嬢にもご興味を持たれないのです。


 それならもういっそのこと、彼女たちの中からお相手を決めて下さればなどと思ってしまいます。伯爵家令嬢のケイトさんは別として、家格の問題ならそれこそアーガス伯爵家と養子縁組すればよいでしょう。


 私しか見ていないというのは、血の繋がった実の妹を心配しているだけではないでしょうか。一件落着したとは言え、婚約破棄されたという不名誉を背負わされているのですから。


「こ、これからこのお邸で顔を合わせる機会も増えるでしょうし、私も応援しますのでがんばって下さい」


 それから彼女たちは、専属メイドを伴って四階のそれぞれに割り当てられたお部屋へと向かわれました。専属メイドはそのお部屋の中に小部屋があり、そこで寝起きすることになります。

 常に主の傍にいられるというわけですね。


 三人を見送った私は、見覚えのある顔を見つけて声をかけました。元ストラド子爵家メイドのロマリエです。彼女が手を引いているのは、恐らく祖父のトルネスでしょう。


「ロマリエさん、よく来て下さいましたわ」


「こ、皇女殿下! ご挨拶が遅れてしまい……」

「お気になさらないで。そちらがお祖父さまね?」


「では貴女様がシャネリア殿下ですか! この度はわしのような老いぼれまで雇って頂き、感謝してもしきれんです。ほんっに、ありがとうございます」


「ご無理はなさらずに。お二人のお部屋は一階に用意してあります。今日はゆっくり休んで下さいね」


 この後、父上さまが派遣して下さった警備兵団や、主だった使用人たちと挨拶を交わしてから、私も自分の部屋に向かうのでした。

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