第202話 誠吉の死
「なあ、どんな船で人が死んでたんだ?」
男は思わず詰め寄る。
「誠吉だ……、誠吉の船で……、人が死んでる!」
「何だって!?」
有志によって、船から遺体が運び出されていく。
「誠吉!」
やはり、彼だったのである。
「何か握ってるな……」
悠月と松井は、握っているのが悠月の落とした手紙ということにすぐ気づいた。
「俺の忘れて行った手紙じゃないか!?」
「多分……。けど、まずは役人に理由を話してからにしよう」
「そ、そうだよな……」
悠月と松井は、隆景と共に役人、医者に事情を話し、誠吉の遺体から手紙を回収することを許された。
だが……、手紙は強く握りしめたまま亡くなったようだ。
「回収する、とは言えども……」
「死後硬直のせいもあるのかもね……。難しいな……」
二人は頭を悩ませる。
力づくで取るとしたら、手紙がまず破れる。
さらに、誠吉の手を傷つける結果になるだろう。
悠月は誠吉の手を握った。
「どうして?」
「温めれば、少しは違うかもしれないと思って……。俺、普段から手は温かいほうだからさ」
「そういうことか……」
松井と隆景はただ様子を見守る。
手紙は何とか回収することができた。
「この手紙は……、兄上から?」
「そうだよ……、隆元様から預かった手紙だ」
悠月は手紙を見て、複雑な思いになる。
「もし、俺が……、手紙を落としていかなかったら……!」
「悠月、今はまずやるべきことをやろう」
「けど、それでもさ! 人が巻き込まれて死んでるんだぞ!」
悠月は強い口調で言う。
松井はその言葉に、どう返すべきか悩む。
「それで、ゆづ兄様。手紙を託されたのであれば、先に渡すべきですよ。仇討なんて、その後でも……」
「俺は仇討なんてしないが、下手人を捕まえて、役人に引き渡す!」
「……そうですか。でも、先に兄上から託された手紙を、父上にお渡ししてください」
悠月は少し黙り込んで、頷いた。
「……行こう」
松井は悠月の背を押した。
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