第175話 村上合流
待ち合わせた場所へと、小早川隊は順調に航海していた。
海が光を浴びて、キラキラ輝いている。
「……海が美しいな」
隆景はひそかに海の色に見惚れていた。
暇に妻と過ごすと約束をしてきた隆景は、二人きりで生みに来るのも悪くないか、と考えていた。
「んん? 妙ですね……」
「どうしましたか?」
隆景は不思議そうな顔をしている兵に話しかけた。
「まだ、村上水軍が到着していないようです」
「もしかしたら、私たちが早く来てしまったのやも……」
「もうすぐ約束の刻限のようですが……」
「何らかの事情で遅れているのやもしれませんね……。念のため、しばらく待ってみましょう」
隆景たちは、しばらく待つことにした。
ただ、待てるのもあまり時間はない。
夜襲をしたい、と考えているので、夕方には門司の近辺を航海している状態に持って行きたかったからだ。
しばらくして、ようやく数隻の船がやってきた。
旗印を確認すると……、『丸に上文字』
間違いなく、村上水軍の表紋だ。
「隆景様―! 遅参いたし、誠に申し訳ござらん!」
声の主は、村上通康であった、
だが、どうも顔色が悪いようだ。
「父上、あまり大声を出されては……」
若い青年が彼の体を支えている。
「隆景様、どういたしますか?」
「村上殿の顔色が悪いようです……。水軍を率いる者が船酔いなど起こすのでしょうか?」
「そうですね……。船にしかと慣れたものであっても、体調が悪ければ船酔いを起こすこともあり得ると存じます」
兵の一人が言う。
彼は、松井が船酔いした時も診察をした者だ。
村上通康は、激しく咳き込んでいる様子を見せまいと背を向けた。
「ち……、父上!」
青年の驚いたような大声が聞こえる。
「騒ぐでない」
村上通康の声は少し掠れている。
隆景は心配そうにその様子を見守った。
「しかし……」
「心配いらぬ」
彼はそう言って聞かなかった。
だが、村上通康は悟っていた。
……自分は長くない、と。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます