第166話 来島村上水軍へ

隆景は、早速城に戻り、乃美へと指示を出した。

「父上からの命令です。門司城へと船を出し、奇襲を仕掛けます」

「唐突ですな……」

乃美は苦笑いしながらも了承する。


「もちろん、村上水軍らにも協力を要請しましょう。我らだけでは厳しいだろうと思いますから」

「はっ! 交渉は任せてくだされ」

乃美はそう言って、手紙を書く準備を始めた。


村上むらかみ 通康みちやすへとあてられた手紙は、早急に来島くるしまじょうへと持ち込まれた。

「小早川隆景の使いとして参りました! 村上通康殿へお目通りをお願いしたい」

使いの兵が来島城の門番へと取次ぎを依頼する。

それをたまたま聞いていた通康本人が顔を出す。

「義父殿からか? 入られよ」

通康はあっさりと兵を中に入れた。


隆景は厳島合戦の前に彼の元へ養女を嫁がせていた。

義父というのも、そう言った意味合いである。

隆景には子がいない。

しかし、姉の五龍局が生んだ娘を養子に取り、そのうえで村上通康へと嫁がせていたからである。


「また唐突な依頼となり、相すまぬ、と言伝とともにこちらをお渡しさせていただきたく」

使いの兵はそう言って、手紙を渡した。


「義父殿の依頼はいつも唐突ですな」

ガハハ、と大笑いしながらも村上は手紙を受け取った。

「拝見させていただく。そなたも使いご苦労であった。ゆっくり過ごさせれよ」

通康は手紙を読み、返事を書く。

使いの兵をねぎらいたいのか、手紙の返事をもらうのには翌日の夕方までかかった。


「待たせてしまい、相すまぬ。こちらが返事の手紙じゃ。しかし、もう今日は遅い。明日の早朝にでも戻られた方が、そなたも安全じゃろう」

そういって、村上は彼を宴に連れ込んだ。


「皆の者! 時期に戦じゃ! 存分に備えておけ!」

「おー!」

水兵たちの元気な声がこだまする。


「さ、お主もしかと食って、しかと飲むがよい」

村上は終始上機嫌で兵をもてなした。

「このような宴にまでお招きいただいて、ありがとうございまする!」

兵は感動した。

飲めや歌えや、どんちゃん騒ぎ……!

楽しい一夜はあっという間に過ぎて行った。


翌朝、村上自ら兵を見送りに門外へ出ていた。

「では、義父殿によろしゅう頼むぞ」

「お世話になり申した。誠に感謝いたしまする」

兵は深々と頭を下げ、急いで隆景の元へと帰っていく。

「我らも、支度をせねばな」

村上はそう言って城へと引き返す。

「……ゴホン!」

彼は大きく咳を繰り返した。

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