第155話 過去の夢

元就は幾度となく、策を練っていた。

全ては、銀山の奪還の為に。


「父上? まだ起きていられたのですか……」

隆元は少し心配そうに言う。

「おお、隆元であったか。……もう休もうと思うておったところじゃ」

「そうなさってください」

隆元は自分の寝室へと向かって行った。


「また朝にでも考えてみるとするかのう……」

元就は床へ着く。


その日、元就は夢を見た。

そう、大分昔の事……。

第一次月山富田城の戦いの時の夢だ。


大内軍の一隊として、毛利軍も参戦した。

だが、それは失敗だった。

大敗し、元就たちも敗走、隆元ともども切腹して果てよう、そう考えた時である。

『殿、鎧兜を貸していただきたい』

家臣であった渡辺通が申し出てきたのである。


……すべては

『毛利元就』を生かすために。

そして、渡辺は元就の鎧兜を身に着け、7人の家臣を引き連れた。

だが、彼は……。


彼が帰ってくることはなかった。

元就の身代わりとなり、渡辺通及び7人の家臣は身代わりとなって討ち取られた。


ハッとして、元就は飛び起きた。

空はまだ薄暗い。


「……まだ夜明け前であったか」

縁側に出てみると、ひんやりとする。

「……ふむ。さてと、今日も始めるかのう」

元就はいつものように念仏を唱え始める。


誰に対して唱えていたか……。

太陽に対して唱えているのか、それとも今まで散っていった家臣たちに唱えているのか……。

それは元就にしか分からない。

だが、念仏を唱え終わると、やはりいつも気分が良くなった。


元就は、身支度を始めた。

「そろそろ動かねばならん時が来たようじゃ」

誰にともなくそう言った。

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