第152話 うっかりミス

待てど暮らせど、隆景は来ない。

「どうなっとるんじゃ?」

「隆景の元にだけ、手紙が来ていないと考えるのが妥当なのかもしれんな……」

「父上が隆景にだけ、手紙を出し忘れるなんてことはないじゃろう?」

「ほぼないと思うが、人間じゃからな。忘れることはなきにしも……」

隆元も不安になってくる。


「今日は泊まる予定で新庄には言ってあるが、明日になったら、ワシは一旦帰るぞ」

「そうするがよかろうな。」

隆元も元春も、妻に対しては愛妻家なのである。

なので、余計な心配をかけたがらないし、お互いにその気持ちがわかる。


「元春! どうしたんじゃ?」

「父上が呼んだんじゃろ!」

元春は驚いて言い返す。

「そうじゃったか?」

「ほら、この日に来い、と手紙を書いて出したのは父上じゃろ!」

元春は手紙を見せた。

「……すまんの、元春。一月間違えて書いておったわ」

「……え?」

今は六月である。

「七月にたまには家族で集まろうぞと思って手紙を送ったつもりだったんじゃが……。どうやらうっかり間違えてしまった様じゃ」

元春と隆元はポカン、としていた。


「ワシも人間じゃ、間違えもするぞ」

元就は開き直って笑った。

「父上!」

元春は脱力してしまった。


「まあ、ついでじゃ。軍略の話でもするか」

元就の言葉に、隆元と元春は苦笑いで頷いた。

やはり、謀り神と謳われた実父ではあるが、軍略の話を聞いて、今後の戦に生かしていきたい、被害は最小に、結果は最良に、と隆元も考えていたのである。


「まず、策略とは……」

二人は話を聞き始めてから思い出した。

元就は、話が乗り出すと非常に長く話してくる。

説教なども話が長いタイプだということを自分たちも忘れていたのだ。


「長くなりそうじゃな」

「そうじゃった……」

二人は苦笑いした。


昼過ぎから始まった話から解放されたのは、夕食直前だ。

「足が痛い……」

「同感じゃ」

二人はしびれた足を引き摺るようにして部屋を後にした。

「少し話しすぎたかの……」

元就も苦笑いした。

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