第142話 連携

隣の集落へ、鉛中毒の患者たちを運び込む。

医者は先に集落の長に話をしていた。

「すまない。村が賊に襲われていてな……。患者だけでも匿って欲しい」

「構わぬ。集会場に連れて行ってほしい。そこであれば広い。それなりの人数も横になれるだろう」

長は申し入れを快諾した。


「治療など手伝えることはあるか?」

「手を貸そう」

集落の人々は優しく手を差し伸べる。

「ありがたい!」

医者はてきぱきと事情を話し、協力を仰いだ。


「とてもいい人たちだね」

松井は悠月に話しかけた。

「多分、ここの集落とあの村は元々交流があって、有事の時は協力し合ってきたんじゃないか?その方が連携も取りやすいし」

「なるほど、その視点はなかったな……」

「ああ、俺がそう思ってるだけだよ」

悠月は苦笑いした。

「様子を見るに、あながち間違いじゃないと思うよ。……僕はね」

松井はにこやかに言った。


一方で、村。

押し寄せてきた尼子軍に対し、毛利軍は村の防衛を行う。

「一兵たりとも通すでないぞ!」

元就は厳しく厳命する。

それもそのはず、通してしまえば集落まで追って行く可能性もある。

そこには、鉛中毒者……特に重症者から脱出させているから、鉱夫たちを襲われたくはなかった。

彼らは元々戦に無関係だ。


軽症で自ら残ると言い張った鉱夫たちを守り抜こう、と毛利軍も奮戦する。

「行くぞ、皆の者!」

元春隊が斬りこむ。

尼子達も、元春隊の猛攻に応戦する。

「魚鱗から鶴翼に陣形を変えて動くぞ!」

元春は的確に指示を送る。

隆元は弟の後ろ姿に、勇猛と父譲りの軍略に感心する。


同時に、胸の奥でもやもやとして気持ちになる。

自分よりも優れた弟に複雑な気持ちになったのである。


「さてと、我らは民を守るぞ、よいな!」

隆元は自分の隊に命令を送る。

「はい、隆元様!」

兵たちは一斉に返事を返した。

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