第112話 弘中親子の最期

弘中も元春も、やはり一歩も引かない。

「殿の為、負けるわけにはいかぬのだ!」

「陶殿なら、もう自害された」

「う……、嘘だ!」


弘中は動揺して隙だらけになる。

息子の弘中隆助は父の隆包を助けようとする。

「父上―!」

だが、彼の手は父に届かない。


「討ち取ったり!」

ほぼ同時に、弘中親子は討ち取られた。


「これで、大内も大幅に弱体化するじゃろう」

元春はそうつぶやいた。


元就へと弘中を討ち取ったことを報告する。

「左様か……」

「父上、どうしたんじゃ?」

「ワシの考えが合っておればじゃが、恐らく弘中殿はこの戦、乗り気ではなかったのであろう。弟君を岩国へと残しておるのならなおのことじゃ」

「うむ……」

「まあ、真偽などは分かるまい。弘中殿に聞くことは叶わぬことじゃ」

「それもそうじゃな……」


元春は言葉の意味を考えた。

なぜ、乗り気ではなかったのか、と……。


元就は兵たちを招集した。

「皆の者、これから忙しくなるぞ!」

元就はそう言ってやることを言う。


「まずは死者を対岸へと運ぶ。島中全ての戦死者じゃ!」

「島中全て、でございますか?」

「そうじゃ。ここは神聖なる厳島じゃ。死者を残してはいかん。それと、陶の首を探すのじゃ!」


陶の首はまだ見つかっていなかった。

自害した三人の近侍が、陶の首を隠してしまったからである。


「首実験の為だろうな」

「首実験?」

悠月の言葉に、松井は怪訝そうに聞き返す。

「こういった戦のあとに、討ち取った首や見つけた首が本当にその人物なのか調べるんだよ。まあ、俺たちの時代みたいに詳しく調べることはできないけどさ。」

「そういうものがあるんだ……」

「まあ、そう思ってくれればいい。俺も実際の様子なんて見たことないし」


二日後、毛利軍の兵士が一人の少年を捕らえた。

「た……、助けてください……」

少年は怯えていた。

「取引じゃ」

元就は穏やかに言った。

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