第113話 捕虜から小姓へ

捕まった少年は元就の声に驚いた顔をする。

「オイラに……、何を……?」

「お主に対して命は助けよう。その代わり、陶晴隆殿の首の場所を教えて欲しいんじゃ」

「……本当に? 本当にオイラを殺さない?」

「ああ、それは約束をしよう」


少年は素直に陶の首のありかを教えた。

元就は、その話を信じることにした。

「すまんの。その場所まで案内は頼めるか?」

「へい!」

少年は素直にその場を案内した。


掘り起こすと、確かに陶の首がある。

「……大義であった。おぬしはお主の家へと戻るがよい」

「オイラはもう、家がないんだ」

「左様であったか……。ふむ……、ワシのところで匿おう」

元就はその少年を自分の小姓の一人として雇うことにした。

「本当に……、よろしいのですか?」

「もちろん、お主が良ければの話じゃがな」


彼はもちろん、断らなかった。

収入がなければ、生きていくことができないからだ。

「殿様、よろしくお願いします」

少年は深々とお辞儀した。

「うむ、勤めを果たしてくれればよい」

元就は優しく声をかけた。


元就は、首実験の前に兵たちに命じたことがあった。


「血で汚れた土を全て掘り、一か所に集めよ」

「全て、でございますか!?」

もちろん、これには兵も家臣も面食らう。


「ここはどこか、お主らは覚えておるかの?」

「厳島……、ああ! そういうことでございましたか」

そう、厳島は神々が住まう島。

神聖な土地であり、神々からすれば、血は穢れたもの。

元就が命じた意味に、家臣たちはようやく気付いた。


「左様じゃ。済まぬが頼むぞ」

「かしこまりました!」

家臣たちが必死で血を吸った地面を削る。

そして、対岸へと運んでいくのである。


「そこまで徹底する必要あるのかな?」

「女性も月の物が来たら島外へと移動すると言われるほど神聖な場所だ」

悠月は苦笑いで応える。

「何で知ってるのさ?」

「以前家族旅行で宮島に行くか、って話が出たけど、母さんが月に物になってさ。その時にばあちゃんが言ったんだ。それでよく覚えてる」

「なるほどね」

悠月の説明に、松井は納得した。

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