第105話 心境
28日、夜明け。
結局、冲家水軍の姿はない。
「……やむを得ぬ。これ以上待っておっても宮尾城が落城する可能性が高くなるばかりじゃ。皆の者、我らも宮尾城へと向かうぞ!」
地御前へと全軍を進めさせる。
「毛利の親父殿! 我らも加勢いたすぞ」
そこには、200艘~300艘という数の船。
村上水軍の救援が駆けつけてきたのだ。
「凄い数の船だな!」
「村上水軍の規模の大きさが良くわかるよ……」
二人は感心したように見ていた。
「おうおう、甲冑も着ないで戦に行くとは肝が据わってるじゃねぇか!」
「え?」
松井はキョトンとしていた。
隣にいた悠月はなぜかすでにいない。
「悠月!」
「兄さん、どうする? 俺たちの船に乗っていくかい? 敵地のど真ん中までさ」
「あ、いえ、遠慮させていただきます」
松井はそう言うと慌てて立ち去った。
「悠月! 先に逃げるなんてひどいじゃないか!」
「ハハ、すまん」
悠月は笑って答えた。
そう、悠月は。
村上水軍の船に勧誘される気がしたからさっさと逃げたのである。
それも、松井を置いて。
「今日は日が悪いな」
悠月は空を見て言う。
「……そう、だね」
「明日はどうなるか……」
悠月の声はあまり元気がない。
「さあね。珍しく元気ないね」
「……厳島の戦いは激しいからな」
「そういえばそうだっけ」
この後、厳島の内部で戦う時のことを思った悠月は少し暗い顔をする。
「……隆元様も元春さんも、どういう心境だろうな」
「そりゃ、旧友でもあるんだからね……。辛いと思う」
「それを思うとさ、なんか複雑な気持ちになるんだ……」
「うん、確かにね……」
悠月はハッとした。
「ほら、湿っぽいの終わり! 早めに休むぞ!」
「はいはい、そうだね」
悠月は先を歩く。
「……本当は色々考えこんじゃって辛いくせに」
松井はぼそりと呟いて、悠月の後を追った。
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