第104話 陶の侵攻

「元就様―!」

「何事じゃ!?」

一人の兵が大慌てで駆け込んでくる。

「早馬より伝令でございます」

兵は手紙を元就に手渡した。


「ふむ……」

元就は手紙を開封する。

「……急がねばのう。陶軍は既に厳島へと上陸、宮尾城へと進軍を始めておるようじゃ!」

宮尾城は海路の要所である。

陶軍が宮尾城を占拠してしまえば、こちらに勝ち目はなくなる。

元就は少し黙り込んだ。


「父上?」

「しっ! 元春、今は話しかけてはいかん」

隆元はそれとなく小さい声で元春を注意した。


「これより我らは、水軍基地を兼ねておる草津城へと出陣じゃ!」

元就・隆元率いる毛利軍には、吉川元春の軍勢と熊谷氏・平賀氏・天野氏・阿曽沼氏などの安芸国人衆が加わっている。

「隆景も後ほど合流する。水軍を率いてくる手はずになっておる」

「どれほどの手勢で行くか……」

佐東銀山城を出陣したのが、24日である。


毛利軍は手勢4000程度、船も200艘に満たない兵力で厳島へと向かう。

佐東銀山城に留守居させる兵などを考えたら、これが精一杯だった。


隆景も独自に草津城へと向かっていた。

「能島村上氏と来島村上氏はちゃんと応じてくれるだろうか……」

家臣の乃美宗勝を派遣して交渉はしているのである。


日に日に、元就は隆景にせっついた。

「冲家水軍の救援はまだか?」

「まだ知らせが届きません」

隆景は申し訳なさそうに言う。

「もし明日の28日まで待ち、来ないようであれば我らだけで突入する」

隆景は渋々頷く。


話は前後するが、この前日である26日。

元就は先に熊谷信直に兵と船50艘を預け、先に宮尾城へと援軍派遣を行っていた。

宮尾城は堀を埋められ、水源を絶たれるという危機的状況であったからだ。


元就は冲家水軍へと早馬を飛ばした。

「まだ来られぬか?」

「大至急頼みたい」

手紙の内容も、焦燥していた。


「父上、我らも先行しては……」

「ならぬ」


結局元就たちは一日、出陣の準備をして水軍を待った。

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