第92話 落城

平賀が築かせた要害山城。

そこを拠点に変更する。


そして、元就や陶晴隆などは、再度神辺にいた。

今度は陣を引き払うためである。

「皆の者、安芸に戻るぞ」

毛利軍はいそいそと撤退の用意を始めた。


陶晴隆も同じく、撤退を命じていた。

「さあ皆、戻るぞ! 平賀隊は平賀殿に従うように!」

「ははっ!」

兵たちは陶の指揮を受け、行動を始めた。


平賀は、陣中で臥せっている時間が増えていた。

「ただの……、ただの風邪だ」

周りには、ひたすらそう言い続ける。

「風邪というにはあまりに悪質のような気もするが……」

悠月は困り顔で言う。

「だが、彼は風邪だと主張するし……、でもやっぱりお医者さんにかかった方が……」

松井も心配そうに言った。

「心配はいらん!……風邪だ」

平賀はそう言って、受診の打診すら突っぱねた。


「平賀様!」

「心配いらぬ。横になっておればそのうち治る」

彼はそう言って笑った。


数日後のことである。

「平賀殿、あさの用意が……、平賀殿?」

兵の一人が呼びに来たが、返事はない。


「平賀殿!」

顔色はすっかり青ざめていた。

そして、目には光がなくピクリとも動かない。


「死んでいる!?」

平賀隆宗、陣中に没する。

死因はやはり病死であった。


その死は、速やかに大内義隆へと伝えられた。

「……隆宗、お主もまた、先に逝ってしまったか」

大内義隆は、空を仰いだ。


遺された兵たちは、平賀隆宗の弔い合戦として、神辺城への攻撃を始めた。

そして、攻撃し続けること二ヶ月。


ついに山名氏は城を捨て、逃走した。

結果として、平賀隊の念願叶い、神辺城は落城したのである。

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