第88話 田畑狩り

二人は青田刈りを手伝い、青いうちの稲を刈っていた。

べちゃっ!

「ちょっと……! 悠月!」

松井が悠月を睨む。

「ん?」

悠月はなぜ睨む?と言わんばかりの顔で見る。

「泥が飛んだ! 気を付けてよね」

「あー、ごめん」


そもそも、この青田刈りを行ったのは7月である。

ヒルなどを予防するために脚絆や布を付けているが、泥がひんやりとしていて気持ちが良い。


「ぎゃあ!」

松井は知らん顔で立ち去ろうとする。

「まーつーいー!」

悠月は松井に怖い顔をする。

そう。

悠月の服に、松井は泥を意図的にかけたのだ。

仕返し、と言わんばかりに。


「どうしたんだい?」

松井は涼しげな顔で言い返す。

「お前はわざとだろ?」

「アッハハ、バレたかぁ。って、ちょっと待って!」

悠月は松井にタックルする。

悠月はそこそこ筋力があるが、松井は比較的華奢な体つきだ。

悠月の手加減したタックルでも、松井は泥だらけの田んぼに尻もちをついた。


全身泥だらけになった松井も、イラっとした顔をする。

「おいそこ!遊ぶな!」

弘中からの注意に、二人は睨み合いつつ距離を取る。


「後で手合わせでコテンパンにしてやる!」

松井はひそかに闘志を燃やす。


悠月はあまり反省をしないでいた。

「それにしても、泥だらけだ。あとで風呂だな」

悠月の言葉に、近くの兵たちも頷いた。


もっとも、当時の風呂は今の温泉とは違い、湯気を楽しむものという定義が広まっていた。


松井も悠月も、風呂の話題が出ると元気になる。

「早く入浴したい!」

二人はそう思った。

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