第77話 消沈のち

「私の采配で、大事な家臣たちが……」

徳寿丸は、数日間落ち込み続ける日々だった。

「徳寿丸、キミのせいじゃないよ。それに、いつまでも泣いてばかりではいられないだろう?」

松井は優しい口調で言う。

「それでも、山上殿や井上殿は帰ってこないよ」

松井はそう言われると、何も言えなくなる。


「徳寿丸様、申し上げます!」

伝令兵が徳寿丸に申し伝えようとする。

「それは……、良い知らせ?」

「はい、我らにとっては吉報でございます!」

伝令兵はどこか誇らしげだ。


「比叡尾山城に潜んでいた伏兵の攻撃が功をなし、尼子が退却いたしました!」

「えぇ……!」

松井は驚いて声を上げる。

「それなら、父上たちは……!」

「もちろん、ご無事です。今回は吉田郡山城には尼子の手が及んでおりませんので」

「それならよかった」

徳寿丸は心底安心したようだ。

「しかし、喜んでばかりもいられませんぞ」

敗走し、生き延びていた福原はそう言った。


「それは、つぎはこちらも攻められるということでしょうね」

「その通りでございます」

「尼子はしつこいな」

松井は苦笑いした。


松井が部屋に戻り、悠月からの手紙を読む。

「テンションハイになったからって、分厚い手紙なのはどうなのよ……」

そう思いつつ、手紙に目を通す。


「次はどうなる?」

手紙に答えを求める。

「元就の妻、養母が亡くなる……、それからは……?」

手紙を読み進めていく。

「徳寿丸もそのうちに元服!?」

松井はキョトンとする。


「そもそも元服って……、僕たちからしたら成人式的なものかな?」

松井は返事の手紙を書く際、ついでにそれも書き加えた。

「さてと。飛脚さんに……」

「松兄様、どちらへ?」

「手紙を出しに行くんだ。悠月宛の」

「すぐ帰ってくださいね」

徳寿丸は何やら困っているようだ。

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