第53話 佐東金山城の戦い

当然の奇襲に、安芸武田軍は混乱する。

そもそも、佐東銀山城に籠城していたのは300人余り、なおかつ当主である武田信実は出雲へ逃走しているという状況下である。

城の防御が崩れるのはあっという間だった。


「……もはや、これまでか」

城の指揮を取っていた武田信重はつぶやいた。

彼には、まだ幼い子供がいた。

「……息子を安国寺へ逃がしてくれ」

こっそりと、信重は家臣の一人に子を預けた。

のちに、この息子は毛利軍に関わっていくこととなることは、誰が知っているだろうか……。


そして、自らの体に刃を突き付け自害する。

城を護れなかったことへの責任か、当主としてのけじめか……。


元就は信重の亡骸を見つけた。

「安芸武田氏もこれで途絶えたのう……」

事実上、安芸武田の流れはここで消えた。


元就は、佐東銀山城を占拠したのち、佐東銀山城を守り討ち死にした者たちを丁重に葬るよう指示をした。

「大内殿への報告もせねばの」


一方で大内方は別の戦場にいた。

またこの時、大内軍は矢賀・中山・尾長3村の境界の峠を越えて武田氏に属する安芸府中の領主である白井氏を攻略していた。

後にこの峠は「大内越峠おうちごだお」と呼ばれるようになったという。


城攻めを見て、悠月たちは思わず口を覆う。

「こんなに壮絶なもんだったのか……。城攻めって」

「無血開城ができるのなら、やはりそれが最善じゃがな……、やはりすべてがそうはいかんのじゃよ」

元就も悠月たちの気持ちに寄り添って言葉を選ぶ。


後日、大内方より城番にと冷泉れいぜん隆豊たかとよを城主に置かれることとなった。

彼は元々、大内軍にて水軍を率いる立場にあった。

また、古くから大内義興、そして現当主である義隆に仕えている古参だ。


「毛利殿、城攻め大義であった、と義隆様より言伝でございます」

「恐れ入りまする」

「これより、佐東銀山城の常磐として勤めさせていただきます」

冷泉は元就へと頭を下げた。

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