第42話 目的

「……本当の目的?」

「それがあるからこそ、我が息子を連れ去ろうとしたのであろう?」

「……あなた方を討つためです」

咄嗟に松井はそう答えた。

もちろん、相応の処断はあるだろう。

「さようか。それで徳寿丸を」

元就は信用しているようには見えない。


隆元は未だに警戒を弱めない。

「尼子の手の者ですからな」

「僕は! 僕はあなた方を討った後にただ悠月と仲直りしたい、それだけだ!」

「毛利家を討つ理由にはならないだろう!」

悠月は声を荒げる。


「良いから落ち着くんじゃ」

隆元は悠月を宥める。

だが、悠月の気持ちは痛いほど理解した。

それほどまでに、毛利家を大事にしてくれているのだと隆元はすぐに理解した。

嬉しく思う反面、それが友情のヒビを入れてしまったことに罪悪感さえ覚える。


松井は当分の間は捕虜として本丸に幽閉されることとなった。

「……当分、牢屋暮らしか」

「覚悟の上でやったんだろう?」

悠月は松井をそれとなく冷たく突き放す。

「……そんな覚悟、してなかった」

「じゃあなんだ? あっさり解放されると思ったのか?」

「……いや、さっくりと打ち首になると思ってた」

「そうほいほいと打ち首にはならないよ……」

悠月は脱力する。

「ところで、僕は尼子が引くまでに出られなかったら、どうなるんだい?」

「さあな。俺も知らないし……。けど、毛利従軍か処断されるのどっちかだろうな」

「なるほどね」


松井は毛利氏をぶち壊したい、その希望でこうして切り盛りしている。

だが実際に毛利と対峙するとなぜ、と言う気持ちがわく。


その数日後。

ついに大内は陣を敷いた。

大内が来たとなれば、毛利の士気は自動的に上がる。


大内軍は山田中山の陣を撤去して吉田郡山城から西に尾根伝いである天神山に本陣を移し、青光山の尼子陣営の真正面に対峙した。尼子軍は大内軍を牽制しようとしたが、大内軍の陣替えは阻止できなかった。

尼子方は、少しずつではあるが兵が逃げ出し始めた。

そして。残された尼子の兵はまだ出陣の用意をしているにみえた。

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