第34話 伝令兵

「なんで、毛利の方が優位のままなんだ……!」

松井は苦虫をつぶしたような顔でしていた。

逃げ帰ってきた兵士たちは、その様子におびえる。


「かくなる上は……!」

松井は晴久にある提案を出した。


「恐らく、毛利は大内に救援を要求するはずです。その使者を捕らえ、手紙が行かぬようにしてはいかがでしょう?」

「うむ、そうしよう!」

晴久はあっさりと了承した。

だが、相手は謀神と謳われている毛利元就である。

どうやって使者を送るのか、見当もつかなかった。


ところ変わって毛利。

「さてと、大内義隆殿に救援を要請するとしよう」

「して、使いの者には誰を?」

「鷹じゃ」

「たか……?」

元就が合図をすると、鷹がやってくる。

つまり、伝書鳩ならぬ伝書鷹である。


「いつの間に……」

「エサをやって、飼いならしておいたのじゃ」

「それ、餌付けと言うのでは……?」

「じゃが、役に立つ」


そして、元就は適当な兵を二人ばかり呼び、空の封書を持たせた。

「お主は東から、お主は西から城を抜け、大内義隆殿に合流せよ」

「はっ!」

二人はそっと吉田郡山城を下山し始める。


「父上、あの者たちにはなぜ別の道を?」

「捕らわれる可能性は大いにあるもんじゃ」

「確かに、使者となればその危険も……」

悠月はそこで気付いた。

「鷹が本当の手紙を持っているんですね?」

「そうじゃ」

元就は空を見上げた。


松井は兵を伴い、使者を捕縛しようと吉田郡山城の近くにいた。

「鷹だ!」

「本当だ!優美に滑空しておるのう」

「撃ち落とせるか?」

「……ダメじゃ。……高い!」

「矢は?」

「矢も難しいですな……」

松井は苦々しく鷹を見つめた。

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