第33話 青山土取場の戦い

「父上……?」

隆元は困りつつも声をかける。

「本体を率いるのはワシじゃ」

「え……? ですが父上、それはあまりにも……!」

「皆が危険な状況、ならばワシ自らも出向く必要があるじゃろう」

「ですが……!」

「決めたことじゃ。ワシに万が一のことがあれば、お主が家督を継いでいかねばなるまい」

「しかし……」

隆元はやはりなかなか了承しようとしない。

だが、もう元就は聞く耳を持たなかった。


「大将自らが前線に出て指揮を執る、確かに味方の鼓舞にはうってつけだけどな」

悠月も不安げに言う。

「それでこの場所の戦いを制している、というのが史実だから止めるのは難しいんじゃない?」

「そうだよな……」

悠月も苦笑いする。


元就は、隆元を伴い、尼子軍を正面から引き付ける役割を担った。

そして、元就は目で合図を送る。

「かかれー!」

赤川元保の手勢400余を先鋒に、尼子軍の三沢為幸・亀井秀綱・米原綱寛らと激戦を展開した。

激しく刃がぶつかり合う。

どちらの陣営にしても、ここは引くわけにはいかないのである。


数刻に及ぶ戦いで両軍の疲労が色濃くなった頃を見計らって、元就は合図を送るように指示をした。

空に、空砲を鳴らせる。

伏兵の渡辺・国司・児玉勢が左翼から、桂・粟屋勢が右翼から突撃したため、尼子軍は大混乱となって壊走していった。


「者ども、逃がすな!追えー!」

隆元は声を張り上げて指示を出す。

毛利軍の追撃は、青山の麓にある尼子本陣の外柵を破壊して内部に侵入するまでに至った。

青山土取場の戦いと呼ばれるこの戦いにより、尼子軍は三沢為幸ら500人が討死する大きな被害を受けた。


「寡兵でも、策をもって挑めばこうなるもんじゃ」

元就は穏やかに言った。

「さすがです、父上」

「隆元も、ようやった」

隆元は少し恥ずかしくなって、頭をかいて誤魔化した。

その様子を、元就は微笑ましく見守っていた。

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