第29話 松井の不満
やはり、松井は苦々しい顔をしていた。
尼子晴久が元就の元から投降した兵たちの言うことを真に受け、歴史通りに事が進んでいってしまう現状が気に入らないのである。
「こんなところに陣取ってしまって、火でもかけられたらどうするんでしょうか?」
「なに、投降したものらが言うのじゃ。大丈夫じゃろ」
「そもそも、なぜ元就の元から……」
「気に入らぬことは人それぞれ違うからこそ、わからんものじゃ」
投降したという兵たちは、夜中ひっそりと毛利の手の者を引き入れた。
「首尾よくいっているか?」
「ああ。晴久はやはり我らを信じた」
「愚かな奴よ」
ひそりと話をしつつ、こそこそ準備をした。
松井はなかなか寝付けずにいた。
「やはりどれだけくどく思われようが、甲山へ移動するよう進言し続けるべきか……。そうでないと、歴史は変わらないままだ」
松井にとっての元々の目的は毛利の歴史を変えてしまうことなのだ。
当然、尼子晴久の反応は面白くない。
翌日。
松井はやはり尼子晴久に再進言をした。
「やはり、甲山に陣を変えるべきです!」
「だが、元就を早々に討ち取るのであればここを拠点にするほうが効率が良いじゃろう?」
「そうかもしれませんが、火計などに遭えば……!」
「大丈夫じゃて」
尼子晴久は笑って松井の進言を退ける。
「なんで僕の話を聞いてくれないのか……」
松井はぼそりと不満を漏らす。
毛利方に下って、内部から歴史を壊そうか、とも思った。
だが、毛利方には悠月やくるみがいるのである。
悠月やくるみはちゃんと毛利家の歴史に付いて精通している。
だからこそ、崩そうと思っても崩せるものではない。
「どうしたら良いんだ……」
松井は一人苦悩する。
一方で悠月たちは、陣営の様を遠くから眺めた。
「甲山に陣を張っていないな……」
「甲山に陣を張られては厄介だから、好都合なのよ」
くるみは少し安堵したように言った。
「それに、内応に向かった人たちの苦労が報われているわよ」
「そうだな」
元就は期を見ていたようだ。
「今こそ時ぞ!」
元就はあらかじめ決めていた合図を送った。
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