第24話 動機

話は学生時代にさかのぼる。

「悠月、何読んでるの?」

「おー? ああ、松井か。毛利元就の歴史小説だよ」

「毛利元就かぁ……」

「俺、戦国武将なら毛利元就と伊達政宗が特に好きなんだよなぁ……。あ、でも毛利隆元と毛利両川も好きだしなぁ。」

「ハハ……、悠月は歴史が本当に好きだよね」

「なあ、知ってるか?」

「ん? 何をだい?」

「関ケ原の合戦、総大将が石田三成じゃないってこと」

「え……、違うのかい?」

「石田三成は、現場監督だぞ」

「そうだったんだ……」


松井は楽しそうに歴史の話をする悠月に、もやもやとしていた。

自分には、そこまで打ち込めることがない、という劣等感さえある。


「でもさ、悠月」

「ん?」

「もし関ケ原の合戦で、東軍が負けていたらどうなっていたか、とか興味はないの?」

「……興味はあるよ。話としては楽しいけど、現実的には違うしな。東軍が勝ち、西軍は敗走……あー、でも敗走って言っても島津だけは別格だな。とにかく、捕縛された石田三成、安国寺恵瓊、小西行長が斬首刑になった、これが変わるわけじゃないし」

「それはそうなんだけどね……」

悠月は本を閉じた。

「起こった歴史は変わらねぇぞ。歴史のIFストーリーなんて、フィクションでどれだけでもあるけど、どれも想像が生んだものだ。それに、今万が一関ケ原の合戦で西軍が勝ってたら、俺たちも生まれていないかもしれないし、それこそ軍事国家かもしれねぇよ?」

「そ……、そっか、そういう考え方もあるんだ……」

「上の人間が違うからな。そういうこともありえた、と言うわけだ。って、うわ!部活の時間ギリギリじゃねぇか! 行こうぜ!」

「あ! うん、急ごう」


二人は遅刻こそ免れたものの、やはり時間がギリギリで顧問に叱られた。

「やっぱ、歴史語りだすと長々話す癖をどうにか直さないとな……」

「けど、それも悠月らしさだよ。無理に直さなくていいんじゃない?」

「そうかぁ?」

「少なくとも、僕はそう思うよ」


そして、戦国時代。

彼らの経つ場所に時は戻る。

「……嫉妬していたんだよ、僕は」

「は? 嫉妬!?」

「剣道以外に熱中できるものがあって、その物事にも詳しくて、誰にでも丁寧に解説できる、羨ましくて妬ましい、そう思ったよ」

「言ってくれれば俺はちゃんと歴史を教えるし……」

「悠月、もう、遅いんだよ」

松井はそう言って、ローブを翻して去っていく。

「……松井……?」

悠月は呆然と立ち尽くしていた。

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