第3話 出会い

吉田郡山城の戦いは、史実上8月から翌年の1月まで続いている。

だが、悠月の前で映像のように繰り返される吉田郡山城の戦いは、まるで早送りだった。


「駆け引き、というよりも毛利軍の動きに翻弄される尼子軍って気もするけどな」

郡山の背後にある甲山かぶとやまに尼子が陣取ることを避けるため、間者を使って城の南側(正面)に移るよう工作したと思えば、すかさず手薄になった風越山の陣を急襲し、焼き払わせた、ということさえあった。

「尼子方は相当慌てたろうな……、手薄になった陣にいきなり火攻めだし」

尼子方に同情したい気もする……。


その数日後には、南方の坂・豊島方面に進出した尼子方である。

毛利方の後詰めとして駐留していた小早川興景の陣を攻撃した。

ちなみに、この小早川興景というのは、毛利元就の姪の夫、つまりは義理の甥にあたる。

後の小早川隆景は、彼に養子として引き取られていくこととなるのである。


話を戦況に戻そう。

小早川勢は大内軍先鋒・杉隆相勢と共に反撃。吉田郡山城からも粟屋元良が出撃して湯原勢を挟撃した。池の内方面まで及んだ戦いで宗綱勢は壊滅、日の沈む頃には深田に馬を乗り入れて進退に窮した宗綱も討死している。


ところで、毛利軍はなぜ大内軍と戦っているのだろう?

答えとしては、毛利軍は元々大内の従属であったのである。

元就は、嫡男である隆元を人質に差し出しているほどである。

元就は嫡男を差し出した、ということもあり、大内方に絶大な信頼を寄せられた、と言われている。


なお、その隆元はとても優雅な暮らしをしていたのだとか。

「毛利隆元は、早逝するからあまり目立ってはいないけど……、父親から受け継いでいる才能は凄いと思うんだよなぁ……」

悠月は再びうーん、と唸る。


その時であった。

目の前に刀が飛んでくる。

「うわぁ!」

思わず飛びのくが、どうやら悠月には当たらなかったようだ。

そっと刀に触れてみるが、その刀に触れることもできなかった。

「攻撃されることもない、ってことか」

安心したような、気が抜けるような……。

そんな気持ちになる。


「当たり前でしょう? あなた、自分が実体としてそこにいたらどうなると思う?」

「え?」

振り返ると、眼鏡をかけた冷たい目をした女性がいた。

小柄だが、分厚い本を持っている。


「キミは……?」

「……名前はそちらから名乗るのが礼儀ってものではなくて?」

「……長谷部。長谷部悠月だよ」

「ふーん。私は牧宮まきみや。牧宮くるみ。よろしく」

「くるみちゃんか……」

「ところで、自分が実体としていたらどうなるかわかった?」

「……歴史が変わるな」


それもそうだ。

令和の時代に生きている自分たちが、戦国時代に降り立ったら当然ありもしない出来事も起きる。

それに、様々な武将たちの行く末を万が一話そうものなら、変えようと躍起になるかもしれない。

だから、本当は……。


「歴史を知ることは好きだ。けど、歴史の事件そのものに関わってはいけない、そう言うことか?」

「ええ」

くるみは頷いた。


「そういうことなら、見守ろう」

「分かってくれて嬉しいわ」

くるみは厳しい顔から少し表情をやわらげた。

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